東京大学 海洋アライアンス 日本財団

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海の雑学

サンゴ礁の島を効率よくつくるには……

地球温暖化が進むと気温だけでなく海水温も上がり、水の体積が膨張したり氷河が解けた水が流れ込んだりして、海面水位が上昇すると予測されている。国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」によると、人為的な二酸化炭素の排出をこのまま放置すれば、今世紀末までの上昇幅は、今世紀初頭に比べて0.6~1.0メートルにもなるという。20世紀のあいだに海面水位はすでに0.2メートル上昇しているので、今世紀の上昇予測も現実になる可能性が高い。

サンゴが生息する熱帯から亜熱帯にかけての海域には、サンゴ礁でできた島々がたくさんある。サンゴの生育にともない、硬い岩のようなその骨格が海底で上方に成長して水深が浅くなる。そこに、死んだサンゴの骨格のかけらが波や海水の流れなどで集まって積みあがり、その盛りあがりが海面から上にでる。サンゴ礁が上方に成長する速さは100年あたり0.5メートル前後という報告もあり、このままでは地球温暖化による海面の上昇に追いつけない。そうなれば、この島は海に沈む。その可能性がある島は、日本にもある。

東京大学の茅根創教授、五洋建設技術研究所などの研究グループは、サンゴの積みあがりのスピードを速める方法の研究を、ここ10年ほど進めている。観察と実験の場所にしているのは沖縄県・西表島にある通称「バラス島」だ。

沖縄県・西表島にある通称「バラス島」(写真はいずれも研究グループ提供)

沖縄県・西表島にある通称「バラス島」(写真はいずれも研究グループ提供)

バラス島は、島全体が人間の指くらいの大きさの細長いサンゴ骨格の破片でできている。枝状に伸びる種類のサンゴが死んで、海底から盛りあがったサンゴ礁の土台の上に、その骨格が積もったものだ。

バラス島は、人の指ほどの大きさのサンゴの骨格が積みあがってできている

バラス島は、人の指ほどの大きさのサンゴの骨格が積みあがってできている

バラス島の大きさや位置は、台風や季節風の襲来などで変わる。積みあがったサンゴ骨格は島の地面として固まっているわけではなく、強い波でさらわれたり、新たに運びこまれたりするからだ。したがって、運びこまれたサンゴ骨格が流出しないようにすれば、積みあがるスピードは増すはずだ。

そこで研究グループが考えたのが、プラスチックネットで1メートル四方の囲いをつくって海底に沈め、囲いの中にサンゴ骨格を集める実験だ。水の流れに運ばれていちど囲いの中に入れば、多少の波や流れが来ても流出しにくいと予想した。バラス島から東西に200メートルほど離れた2地点に囲いを設置し、毎月、観測を続けてきた。

運ばれてきたサンゴ骨格を集める実験で使われている海底の囲い。奥右側の四角い囲いには、流出を防ぐための「ひさし」が付けられている。サンゴ骨格が囲いに入りやすいよう、手前に斜面が設けられている

運ばれてきたサンゴ骨格を集める実験で使われている海底の囲い。奥右側の四角い囲いには、流出を防ぐための「ひさし」が付けられている。サンゴ骨格が囲いに入りやすいよう、手前に斜面が設けられている

囲いの形状にも工夫を加えた。いちど囲いに入ったサンゴ骨格が流出しにくいよう、囲いの上部に「ひさし」をつけたり、周りから流れてきたサンゴ骨格が囲いの中に入りやすいよう、囲いの周囲に上り坂の斜面をつくったり。今年の観察では、8月上旬に台風6号が通過したあと、たくさんのサンゴ骨格が囲いの中に運びこまれていた。その詳細な結果はいま解析中で、今年度中に、これまでの成果をまとめたいという。もしこの技術が有効だとわかれば、この囲いを広い範囲に並べたり、サンゴ骨格がたまった囲いの上にさらに囲いを積み重ねたりすることで、規模を拡大することができる。

サンゴ礁の島は波などでつねに削られるため、島を維持するには、サンゴが良好な環境のなかで健康に育って骨格をつくり、それが島の材料となり続ける必要がある。だが、地球温暖化や水の汚染などで、サンゴの生育環境は脅かされている。傷んだサンゴ礁を修復するため、これとは別に、陸の植林に似た技術を開発する研究も多く進められている。五洋建設グループの研究は、生きたサンゴではなく、その砕けた骨格の運ばれ具合に注目する点で世界的にも珍しいという。

文責:サイエンスライター・東京大学特任教授 保坂直紀

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