東京大学 海洋アライアンス 日本財団

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海の雑学

若者たちが環境問題をSDGsで解決に導く

昨年来、海のプラスチックごみ削減に向けた面白い取り組みをしている高校生たちとお付き合いしてきた。高校生グループが企画し、全国の高校生がオンラインで削減のアイデアをまとめて提言する「海洋プラ問題を解決するのは君だ!」というプログラムだ。約100人の高校生が9チームに分かれて提言をまとめ、そのうち3チームがこの2月、横浜市で開かれた国際会議でその解決案を発表した。

かれらと話していて印象的だったのは、なんとか地球の環境を守ろうという熱意に満ちた高校生が多かったことだ。現在のプラスチックごみ問題は、かれらより、むしろその親の世代が原因をつくった。その解決策にかれらが奔走している。大人世代も地球環境のことは気になるが、その熱量は若者たちが勝っているようにみえる。

最近、17の色が並んだドーナツ状のバッジをスーツの襟などに付けている人を、よく見かける。国連が2015年のサミットで採択した「持続可能な開発目標(SDGs)」を象徴するバッジだ。この17色が、SDGsが掲げる「貧困をなくそう」「つくる責任つかう責任」「気候変動に具体的な対策を」「海の豊かさを守ろう」といった17の目標に対応している。目標の達成は2030年。人類を含む生き物たちと地球との共存を図るメッセージだ。海のプラスチックごみとも関係が深い。

沖縄の海岸に打ち上げられたプラスチックごみ

沖縄の美しい海でも、その海岸にはたくさんのプラスチックごみが打ち上げられている。(2019年10月、沖縄県本部町の海岸で筆者撮影)

「海洋プラ問題を解決するのは君だ!」の高校生をはじめ、いまの若者たちは、上の世代よりSDGsに関心を持っているのかもしれない。そんな気がする。若者たちは、地球環境に配慮したSDGs流の生活スタイルをこの社会で実現していく世代なのだろうか。

そう思っていたところ、興味深い研究成果が今年になって発表された。さきほどの高校生たちよりすこし上の世代だが、若者たちは、社会をSDGsの達成に導く原動力になりうるというのだ。

若者のSDGs意識は高い

研究をまとめたのは、広島大学の山根友美研究員らのグループ。2019年と2020年の3月に、日本に住む18歳から75歳までの男女計およそ1万2000人を対象にインターネット調査を実施した。「自分が住んでいる自治体でも、積極的にSDGsに取り組んでほしい」「将来、就職(転職)するとしたら、SDGsに積極的に取り組んでいる企業・組織で働きたい」などの13項目について、当てはまるかどうかを質問した。

注目したのは若者世代だ。この研究でいう「若者」は、1990~2002年に生まれて2020年の時点で18~30歳の人たち。小学校では「ゆとり教育」で育てられ、社会ではガラケーがスマートフォンに替わるデジタル化時代を生きてきた。多感な時期に東日本大震災も経験した。SDGsがその目標の達成を目指す2030年には、まさに社会の中心になっている世代だ。山根さんらは、この若者世代のSDGsに対する意識を、その上の世代(31~75歳)と比較した。

はっきりと差がでたのは、社会がSDGsを実施することに対する期待度の項目だった。「自分が住んでいる自治体でも、積極的にSDGsに取り組んでほしい」と思う人は若者世代が52.6%で上の世代が49.4%、「自分が勤めている会社や通っている学校でも、積極的にSDGsに取り組んでほしい」は若者世代54.0%と上の世代44.9%、「将来、転居するとしたら、SDGsに積極的に取り組んでいる地域に住みたい」が若者世代37.3%で上の世代34.2%、「将来、就職(転職)するとしたら、SDGsに積極的に取り組んでいる企業・組織で働きたい」は若者世代40.1%で上の世代38.1%。質問した4項目すべてで、若者世代が上の世代を上回った。SDGsへの取り組みを求める若者世代の思いは、上の世代より強いのだ。

若者世代は、商品などの購入に際しても、上の世代に比べてSDGsをより意識した行動をとっていた。「値段が高くても、持続可能な商品やサービスを購入する」は若者世代が34.0%で上の世代が29.2%、「商品やサービスを選ぶときに、企業のSDGsの取り組みを気にする」は若者世代21.8%で上の世代が12.5%だった。

この研究では、「若者世代」の特徴として得られた結果が、かれらが今たまたま若いからそうなのか、あるいは、育った時代を反映しているのかを区別できる分析手法を使っているという。つまり、これらの結果は、山根さんによると「若さの特徴」ではなく「世代の特徴」なのだそうだ。

大学生は就活でもSDGsを重視する

さらに山根さんらは、広島大学の学生約670人を対象にインターネット調査を行い、就職先を決める際、その企業の給与とSDGsへの配慮のどちらを重くみるかを調べた。

その結果、「30歳時点の推定給与が年450万円だがSDGsに積極的に取り組む企業」を56.2%が支持したのに対し、「30歳時点の推定給与が年600万円だがSDGsへの取り組みが足りない企業」への支持は28.1%にすぎなかった。給与よりSDGsへの積極姿勢が重視されていた。また、SDGsについて説明を受けた大学生は、SDGsへの取り組みをより重くみて就職先を選ぶようになる。

学生を新入社員として採用する企業の側も、環境問題への取り組みをおろそかにしていると、優秀な学生を採り損なうかもしれない。そして、SDGsがよく知られるようになればなるほど、それに無関心でいる企業は、学生にそっぽを向かれるということだ。

もちろん、SDGsに対しては、さまざまな批判もある。それが持続可能であれ不可能であれ、資本主義のもとでの「開発」は本来的に富や不利益の偏在から逃れられない。それでよいのか。また、SDGsが掲げる目標には、あちらを立てればこちらが立たずで両立困難なものも多く、結局はなにを目指しているのかがわからない。SDGsはたんなる地球の延命治療なのか。延命治療を施しているうちに、きっと元気になってくれる、あるいは「イノベーション」という名の特効薬が現れるに違いないという楽観的な見通しに頼って大丈夫なのか。

だが一方で、地球という限られた空間、限られた資源を使って生きる私たちがこのままの生活を続ければ、地球の環境は悪化を重ねることも、また確かだ。海のプラスチックごみ問題に取り組む高校生たちも、そのことに気づき、行動につなげようとしているのだろう。SDGSで地球をすこしでも守れるなら、まず取り組んでみよう。そうした若者たちのナイーブさで、ちょっとずつでも社会を変えていければいいと山根さんはいう。

文責:サイエンスライター・東京大学特任教授 保坂直紀

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