東京大学 海洋アライアンス 日本財団

TOPICS on the Ocean

海の雑学

プラごみ海岸のヤドカリはマイクロプラを食べてしまう

沖縄本島の那覇市から海を越えて西に約40キロメートル。ダイビングなどで海の美しさを満喫できる沖縄県・座間味島にすむオカヤドカリの体内から最近、マイクロプラスチックが見つかっている。しかも、その個数は、ごみ清掃をまめにする浜としない浜とでまったく違う。調査した沖縄県立芸術大学の藤田喜久准教授は、「ごみ清掃は浜の美観だけの問題ではない。生き物への影響という点でも、海岸のごみ清掃は繰り返し行うことに意味がある」という。

沖縄本島のオカヤドカリ

沖縄本島のオカヤドカリ。

プラごみの量で体内のマイクロプラの数に差

藤田さんは、2018年から2019年にかけて、座間味島の北側にある海岸と南側の海岸でオカヤドカリを調べた。とくに冬季に北からの風が吹く座間味島では、島の北側海岸に漂着ごみが多い。しかも、今回の調査で選んだ海岸は、あまり人が立ち入らないため清掃も頻繁には行われず、漂着ごみが多いという。一方の南側の海岸は、ごみの少ないきれいなビーチだ。

オカヤドカリは海岸などに生息する陸のヤドカリ。藤田さんは、大きさが5ミリメートル以下の「マイクロプラスチック」をオカヤドカリが食べてしまっているかどうかを、北側海岸と南側海岸のオカヤドカリ20匹ずつで調べた。その結果、北側海岸のすべてのオカヤドカリの消化管から、砂粒や植物片、昆虫の破片などにまじって3~41個(平均17個)のマイクロプラスチックがみつかった。それに対し、南側海岸でマイクロプラスチックがみつかったオカヤドカリは1匹のみ。しかもマイクロプラスチックの数は1個だった。

沖縄本島の北に開いた砂浜の海岸

沖縄本島の北に開いた砂浜の海岸。あまり人は入らず、木の枝やプラスチック製品などが満潮時の水際まで打ち上げられていた。(沖縄県本部町で)

ここは小さな島なので、北側海岸でも南側海岸でも、オカヤドカリはおなじ環境でおなじ育ち方をしているはずだ。違いは、生息している海岸にプラスチックごみが多いか少ないかという点だ。

繰り返しごみ掃除をすることで浜の生き物を守る

漂着ごみのあまりない海岸には、マイクロプラスチックを食べてしまうオカヤドカリが少ない。ということは、北側の海岸で多くのオカヤドカリの口に入ったマイクロプラスチックは、おそらく浜に放置されたプラスチックごみがその浜でマイクロプラスチックになり、それがオカヤドカリの口に入った。沖縄の海岸は太陽から届く紫外線や熱が強く、プラスチックが劣化し、砕けてマイクロプラスチックになりやすい状況にある。ごみの少ない南側海岸では、マイクロプラスチックに砕けるプラスチックごみがそもそも少なく、体内への取り込みが免れている可能性がある。

海岸には、ペットボトルをはじめとするたくさんのプラスチックごみが流れ着く。掃除してきれいにしても、またやってくる。だが、もし、その海岸の生き物をマイクロプラスチックから守ろうとするなら、繰り返し掃除し、海岸をできるだけきれいに保っておく必要がある。藤田さんは「拾い続けなければ、浜の生態系を維持することが難しくなるかもしれない」という。尽きることのない漂流ごみに負けずに海岸の清掃を繰り返す活動は、浜の生き物をマイクロプラスチックから守る防波堤になっていることを、藤田さんのこのデータは強くうかがわせている。

文責:サイエンスライター・東京大学特任教授 保坂直紀

海の雑学トップに戻る