東京大学 海洋アライアンス 日本財団

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海の雑学

マグマがつくる火山島

日本に住んでいる私たちにとって、火山はとても身近だ。火山そのものが好きという人はあまりいないかもしれないが、火山の周りでは温泉がわく。わが身を思い返せば、スキーをして野沢温泉の共同浴場を巡ったあとの冷えたビール、夏に北海道の十勝岳で温泉に入ったときは、ドライブ途中だったのでビールを飲めなくて残念だったな。ビール、ビールで情けないが、ともかく火山はなじみが深い。

海には火山で島ができる

西之島(左下)とつながった新島(2014年1月12日、海上保安庁撮影)

西之島(左下)とつながった新島(2014年1月12日、海上保安庁撮影)

火山というとふつう思い浮かべるのは陸の火山だが、火山は海の話でもあるんですね。2013年の11月、東京から南に約1000キロ・メートル離れた小笠原諸島・西之島の近くに、新たな火山島が出現した。海面から顔を出したその姿を海上保安庁が航空機で確認したのが11月20日。溶岩流も確認されて、すこしずつ大きくなり、年末にはついに西之島とつながった。この場所では1973年(昭和48年)にも西之島新島が誕生している。

島の火山といえば、太平洋に浮かぶハワイ島のキラウエアも有名だ。黒っぽい溶岩が火口からトロトロと流れ下って海に入っている。わき一面に黒い溶岩が広がる道路を突っ走るクルマに乗ったことがあるが、にわかには信じられない奇妙な風景だった。

さて、西之島とハワイの溶岩。いずれも島の溶岩なんだからおなじしくみで出てきているかというと、じつはそうではない。地球はいくつかの異なる仕方でマグマを地表に押し出している。西之島とハワイは、それぞれの代表といってよい。というわけで今回は、マグマが地表に出てくるしくみのお話。ちなみに、「マグマ」というのは溶けている岩石が地下にあるときに使う言葉。地上に出ると、溶けていても固まっていても「溶岩」とよぶのがふつうだ。

マグマのしくみ

マグマが地上に出てくるしくみには3通りある。

ひとつは、海底を走る巨大な裂け目から流れ出るもの。この裂け目は太平洋や大西洋などの海底にあって、「中央海嶺」とよばれている。陸上の山脈のように海底の高まりが続いているのだが、その長さは半端じゃない。たとえば大西洋の中央を南北に走る「大西洋中央海嶺」は、高さ3000メートル級の山脈が南大西洋の南の端から赤道を越えて北上し、途中のアイスランドでいちど地上に出てから北極圏に至る。ほとんど地球を半周してしまう大山脈だ。中央海嶺では海底が裂けて両側に広がっていき、そこに下からマグマが湧き出してくる。このマグマが冷えて固まり、新しい海底になる。地球全体で噴出するマグマの7割以上が、この中央海嶺から出てくるとみられている。

もうひとつは、ハワイ島のタイプ。世界各地の海底に、なぜかマグマが湧き上がってくる点状の場所がある。マグマが噴出する場所が中央海嶺のように帯状に分布するのではなく、あくまで1点で湧き上がる。だからこの湧き出し口をホットスポット(熱い点)という。マグマは中央海嶺の場合より深い場所から上昇してくると考えられているが、いまの科学ではまだ詳細がわかっていない。

火山島は一列に並ぶ

そして最後が、西之島に出現した新しい島のタイプだ。

今回の噴火について海上保安庁が最初に出した11月20日の広報資料には、不思議な図が載っている。伊豆半島のあたりから南方に1500キロ・メートルくらいまで、ほぼ直線状に点々と火山島や海底火山が並んでいるのだ。

注目すべきは、火山列に沿って、その東側に伊豆・小笠原海溝とよばれる深い海底の溝が走っていることだ。ここでは、海溝の西側にある「フィリピン海プレート」という海底の下に、東側から進んできた「太平洋プレート」という海底が潜り込んでいる。プレートの下にプレートが潜り込む場所を、科学の言葉で「沈み込み帯」という。つまり、西之島近くに現れた島は、というか、この島を含む伊豆・小笠原の火山列全体が、沈み込み帯に特有のマグマ活動でできた島々だ。

沈み込み帯でのマグマのでき方は、ちょっと複雑だ。沈み込んでいく太平洋プレートはそもそも海底だから、たくさんの水分を含んでいる。これが沈み込んでいくと、水分が絞り出されて、その上にある「かんらん岩」という岩石に受け渡される。すると、水分の影響でかんらん岩の一部が溶けてマグマとなり、それが上昇して噴き出すという仕組みだ。だから、火山ができるのは、太平洋プレートが沈み込んでちょっと先に行ったあたり。こうして火山島は海溝に沿って並ぶわけだ。日本列島の火山も、この沈み込み帯の火山だ。

マグマが噴き出る3種類のしくみを説明するために、図を描いてみた。この図では、ハワイも西之島も煙突のように描いたが、実際の形は、裾野が広がる陸上の火山とほとんどおなじだ。溶岩を繰り返し噴出しながら長い時間をかけてすこしずつ高くなってきて、ついには海上に姿を見せたのだ。

西之島のあたりの海底地形をリアルに感じたいなら、海上保安庁がホームページで公開している海底地形図がお勧めです。深い切り傷のように見える伊豆・小笠原海溝、その西側に整然と並ぶたくさんの火山島や海底火山。海底は陸上に負けず劣らずバラエティーに富んだ地形になっていることが一目瞭然だ。

文責:サイエンスライター・東京大学特任教授 保坂直紀

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