東京大学 海洋アライアンス 日本財団

Ocean and Carbon-neutral Society海とカーボンニュートラル

魚を食べて地球温暖化を抑制する

世界の平均気温は100年あたり0.76度の割合で上昇している(気象庁のホームページより)

世界の平均気温は100年あたり0.76度の割合で上昇している(気象庁のホームページより)

地球はいま、二酸化炭素を始めとする温室効果ガスの増加による温暖化の脅威にさらされています。気象庁によると地球の平均気温は100年あたり0.76度の割合で上がり続けており、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第6次評価報告書では、対策が後手に回れば、今世紀末には現在よりさらに5度近く平均気温が上昇すると予測されています。地球温暖化は、熱波や干ばつ、局地的な豪雨など、命にかかわる災害に直結します。温室効果ガスの排出を減らすことは、現代社会にとって喫緊の課題です。

「カーボンニュートラル」の「カーボン」は炭素の意味で、ここでは二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスを指しています。

「ニュートラル」は中立という意味です。木材やガソリンなど炭素を含むものを燃やせば二酸化炭素が発生します。私たちの社会活動は、発電を始め、ものを燃やさずには成り立たないので、二酸化炭素の排出をゼロにすることは不可能です。一方で、たとえば樹木は、大気中の二酸化炭素を光合成で吸収し、みずからの体の一部として蓄えます。つまり、大気中から二酸化炭素を除去したことになります。こうして二酸化炭素の排出を抑えるとともに吸収で相殺し、実質的にゼロにすることを目指そう。それがカーボンニュートラルの考え方です。

このカーボンニュートラルは世界の流れであり、日本を含め多くの国々が、2050年までにカーボンニュートラルを実現することを目標に掲げています。そのためには、まず、温室効果ガスの排出を可能なかぎり減らさなければなりません。

魚を食べるとどこから二酸化炭素が出るのか

世界が協力してカーボンニュートラルに取り組むには、科学にもとづく確かな事実を積み上げる必要があります。そうしなければ、話し合いの場が各国の思惑の応酬に終始し、協調して対策を進めることができません。

そのための研究を、私たちの身の回りの水産物を対象に実施するのが、この「海とカーボンニュートラル」という研究プロジェクトです。私たちが日ごろ水産物を食べるとき、二酸化炭素をどれくらい排出しているのか。魚を海でとるときから私たちの口に入るまでを通して積算し、まだどこかに二酸化炭素削減の余地があるのかを水産物の食の面から検討する。それが目標です。

研究に用いるのは「ライフサイクルアセスメント」という手法です。原料の調達から輸送、製造、廃棄に至る一連の過程(ライフサイクル)で排出される二酸化炭素などの温室効果ガスの量を、この手法で積算します。二酸化炭素以外の温室効果ガスについては、同等の温室効果をもつ二酸化炭素の量に置き換えます。そうして得られた数値を「カーボンフットプリント(CFP)」といいます。

CFPでは、漁獲から消費者の口に入るまでの過程で排出される二酸化炭素の量を積算する。
CFPでは、漁獲から消費者の口に入るまでの過程で排出される二酸化炭素の量を積算する。

端的にいえば、私たちが水産物を食べる際のCFPを計算し検討することが、この研究プロジェクトの柱です。これが明確になれば、二酸化炭素の排出を効果的に削減する計画を企業や業界が立てる際の目安にもなります。

イワシやサバのCFPは小さい

東大生協とタイアップしたイベント「食べるCO2削減」のポスター

東大生協とタイアップしたイベント「食べるCO2削減」のポスター

オイルサーディン丼は390グラム、鯖みそ煮定食は410グラム、辛みそ豚丼は730グラム。これは、東大生協の食堂で提供した各メニューのCFPです。

オイルサーディン丼は、千葉県銚子の漁港で揚がったイワシを冷凍、加工して生協で提供するまでに排出される二酸化炭素の総量を計算しました。漁獲の際の船の燃料、加工などで使う電気や上下水道、輸送に使うプラスチックや段ボールの容器、ご飯などの利用にともなう二酸化炭素が含まれています。

これまでの他の研究によると、一般にイワシやサバのような小型天然魚のCFPは野菜並みに小さく、養殖魚や肉類は大きい。ハンバーガー1食分のCFPは2350グラムにもなるという報告もあります。家畜の肉より魚のほうが、カーボンニュートラルに寄った食事ということができます。

また、水揚げした漁港の近くで加工すると、その場で内臓などを捨てて食用になる部分だけを運ぶことができるので、輸送燃料からでる二酸化炭素を減らすことができます。その結果、CFPも小さくなります。こうした視点もカーボンニュートラルを目指す際に大切です。

このような研究をしても、一般の消費者に伝わらなければ、それが社会の動きになりません。食のCFPに関心を持ってもらうため、2024年1月に東大生協とタイアップして「食べるCO2削減」というイベントを開催し、食堂のメニューにCFPを表示しました。さきほどのCFPは、その際に使ったものです。

このほか、家畜から排出されるメタンを、餌に海藻をまぜることで減らす研究にも取り組んでいきます。

プロジェクト代表 八木 信行 教授 農学生命科学研究科
メンバー 山本 光夫 教授 農学生命科学研究科
メンバー 阪井 裕太郎 准教授 農学生命科学研究科
メンバー 羽根 由里奈 特任助教 農学生命科学研究科
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