東京大学 海洋アライアンス 日本財団

Achievementsメガ津波からの防災

「メガ津波」から命を守る防災の高度化研究

2011年の東日本大震災での巨大津波は、2万人もの死者・行方不明者をもたらしました。一方、2004年のインドネシアのスマトラ沖地震では巨大津波がインド洋全域に伝わり、沿岸国全体に23万人以上もの犠牲者を生み出しました。巨大津波は一度起きると広い範囲に渡って甚大な被害を及ぼすのが特徴であり、その被害を最小限に抑えることは日本のみならず世界中の沿岸国の共通の課題となっています。

巨大津波による人的被害を最小限に抑えるためには、津波の波高を迅速かつ正確に予測し、的確な警報を出し避難を促す必要があります。しかし、2011年の東日本大震災では、津波の予測が十分とは言えませんでした。これは、地震波の観測から断層の位置と規模を推定し、その情報に基づいて間接的に津波の波高を割りだしていたためです。

津波の波高を迅速かつ正確に予測するためには、沖合の震源域の真上で津波が発生した直後にその波形をとらえることが重要な鍵を握ります。東日本大震災後には、三陸沖の日本海溝周辺や四国沖の南海トラフ周辺に多数の海底水圧計を海底ケーブルでつないだ津波観測網(S-net, DONET)が整備されました。しかしながら、このようなケーブル式津波計の設置・維持には高額なコストがかかるため、この様な津波観測網を全世界的に展開するのは困難です。次世代の津波予測・警報システムを確立するために、できるだけ低コストで全海洋を効率よく密にカバーできる津波観測網の構築が求められています。

メガ津波からの防災

そこで、本プロジェクトでは、新たな津波の観測方法として、沖合を航行する航空機や船舶を津波観測プラットフォームとして利用する方法を提案し、その有効性を実証するための研究をおこなっています。そのために実際に、飛行機や船舶にレーダーや高精度GPSを取り付けて試験観測を行い、津波によって生じる海面水位の変化を捉えることができるかどうかを調べています。また、このような観測で得られる沖合の津波データを用いて、危険な地域がどこかを瞬時に計算する方法についての研究も行っています。

現在、全世界の沿岸域の大都市を結んで海洋上いたるところを多数の飛行機や船舶が航行しています。将来これらの飛行機や船舶の一部を津波の観測に利用できるようになれば、グローバルな津波観測のネットワークを多くのコストをかけずに構築できるようになることが期待されます。

航空機による津波の観測方法の開発

メガ津波からの防災

航空機によって巨大津波の観測が可能かどうかを調べるために、実験用航空機に小型レーダーを取り付け、黒潮を横切って通過する海面高度計人工衛星Jasonの軌道に沿って衛星との同期観測を行いました。衛星観測との比較から、黒潮に伴う約1mの海面高度の変化が10cm以下の精度で測定できることを示し、航空機レーダーによって沖合の巨大津波が検知可能なことを初めて実証しました。詳細はプログラム報告書(2019), Hirobe et al.(2019)をご覧ください。

メガ津波からの防災

航空機による津波観測のヒアリング調査

メガ津波からの防災

本プログラムで提案した航空機による津波観測を社会的実装するために、具体的にどのような課題があるのか整理するために、官公庁、民間航空会社、航空機器メーカー、研究機関など航空業務や津波防災に関わるステークホルダーにヒアリング調査を行いました。詳細はプログラム報告書(2019)をご覧ください。

船舶による津波の観測方法の開発

メガ津波からの防災

長崎・五島灘を横断するカーフェリーに高精度GPS測器を設置し、気圧変動によって生じる気象津波(あびき)に伴う海面水位の変化の観測を試みました。その結果、船舶GPS観測によって約10cmの精度で海面高度の変化が測定できることを示しました。詳細は丹羽他(2017)をご覧ください。

メガ津波からの防災

船舶・航空機観測に基づく津波の即時予測

メガ津波からの防災

航空機や船舶による観測が可能になったとして、それが津波の予測にどの程度役に立つのか、数値シミュレーションによる仮想実験を行い検証しました。その結果、日本列島の沖合を実際に航行する多数の航空機や船舶によって得られた観測データを使うことにより、既存のケーブル式津波観測網に基づく予測よりも迅速かつ高い精度で定量的な津波予測が可能になることを示しました。詳細はInazu et al.(2016), プログラム報告書(2019), Iyan et al. (2019)をご覧ください。

津波来襲時における湾内応答の解明

リアス式海岸の様な入口が狭く奥行きのある湾に津波が押し寄せたとき、湾内の水位がどう応答するか。その応答が湾ごとに異なるQ値と呼ばれるパラメーターで特徴づけられ、Q値を用いることで、湾外の沖合で得られた津波の波高データから湾内の波高の時間変化が予測できることを明らかにしました。詳細はEndoh et al.(2017)をご覧ください。

プロジェクトの成果

提言

東京大学海洋アライアンス総合海洋基盤(日本財団)プログラム「メガ津波から命を守る防災の高度化研究」提言『航空機による巨大津波の広域観測網の構築』, 2019(PDF)

報告書

東京大学海洋アライアンス総合海洋基盤(日本財団)プログラム「メガ津波から命を守る防災の高度化研究」報告書『航空機による巨大津波の広域観測網の構築』, 2019(PDF)

論文

Tomoyuki Hirobe, Yoshihiro Niwa, Takahiro Endoh, Iyan E. Mulia, Daisuke Inazu, Takero Yoshida, Hidee Tatehata, Akitsugu Nadai, Takuji Waseda, Toshiyuki Hibiya: Observation of sea surface height using airborne radar altimetry: a new approach for large offshore tsunami detection. Journal of Oceanography, 75: 541-558, 2019

Daisuke Inazu, Takuji Waseda, Toshiyuki Hibiya, and Yusaku Ohta: Assessment of GNSS-based height data of multiple ships for measuring and forecasting great tsunamis, Geoscience Letters, 3, DOI 10.1186/s40562-016-0059-y, 2016.
多数の船舶によるGNSS海面高度データに基づく巨大津波の測定と予測に関する分析評価

津波の迅速かつ正確な予測には、震源に近い沖合での海面水位の観測が不可欠である。本論文は、そのための新たな観測方法として、沖合を航行する船舶に搭載した高精度GNSS(GPS)を利用した海面水位観測について分析評価を行ったものである。南海トラフ周辺海域を航行する約90隻の民間船舶で津波発生直後に水位データが得られたと仮定し、そのデータを数値シミュレーションモデルに組み入れることによって沿岸に到達する巨大津波の波高を実用に足る高い精度で予測ができることが示された。このことから、将来、低コストで全海域をカバーできる津波予測方法として民間船舶を利用したGPS観測が有望な方法となることが明らかになった。

Iyan Eka Mulia, Daisuke Inazu, Takuji Waseda, and Aditya Riadi Gusman: Preparing for the future Nankai Trough Tsunami: A data assimilation and inversion analysis from various observational systems, Journal of Geophysical Research, 122, 7924-7937, 2017.
将来の南海トラフ津波に対する備え:様々な観測システムに基づくデータ同化とインバージョン解析

本論文は、前論文と同じく船舶GNSS(GPS)観測に基づく津波予測の有効性について調べたものである。南海トラフにおいて運用されている海底圧力計ネットワーク(DONET)観測システムから得られるデータのインバージョン解析に基づく津波予測シミュレーションモデルに、多数の船舶GNSS観測によるデータをデータ同化の手法を用いて組み込むことによって、より高い精度で広範囲の津波予測が可能になることを明らかにしている。

Takahiro Endoh, Daisuke Inazu, Takuji Waseda, and Toshiyuki Hibiya: A parameter quantifying radiation damping of bay oscillations excited by incident tsunamis, Continental Shelf Research, 157, 10-19, 2017.
津波によって励起される湾水振動の放射減衰過程を定量化するパラメーター

リアス式海岸の様な入口が狭く奥行きのある湾に津波が押し寄せたとき、湾内の水位がどう応答するか。本論文は、その応答が各湾で異なるQ値と呼ばれるパラメーターで特徴づけられることを明らかにしている。このQ値は津波がない平常時の湾水位データから算出可能なパラメーターで、湾内の津波の波高が減衰する時間スケールを規定している。実際、本論文では求めたQ値を用いて、湾外の沖合で得られた津波の波高データから湾内の波高の時間変化が予測できることを示している。

丹羽淑博, 広部智之, 遠藤貴洋, 舘畑秀衛, Iyan Eka Mulia, 早稲田卓爾, 日比谷紀之: フェリー搭載GNSSによる五島灘における気象津波に伴う海面高度変化の観測, 日本船舶海洋工学会講演会論文集, 25, 683-685, 2017.

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