東京大学 海洋アライアンス 日本財団

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海の雑学

港の特性を生かした洋上風力発電とは?

将来の地球温暖化を抑制する「脱炭素」を目指し、洋上風力発電への期待が高まっている。これは、部品の製造から組み立て、建設、保守管理にいたる大きな産業分野で、地元経済への波及効果も見込まれる。だが、これらのプロセスのうちどの部分に注力することがその地元にとって最適なのかを考える枠組みは、かならずしも関係者に共有されているとはいえない。

ウィンドファーム

秋田県潟上市のウィンドファーム

洋上風力発電は、大型の構造物を沖合に建設することになるため、設備の整った港がその拠点として使われる。東京大学公共政策大学院の山口健介特任講師らの研究グループは、部品製造から保守管理にいたる工程を詳細に分析し、想定される拠点港のタイプを、部品の製造から建設、保守管理まですべて行う「松」型、部品の製造は近隣で行わず、パーツの組み立てから保守管理までを受け持つ「竹」型、最終的な組み立てと建設、保守管理だけを行う「梅」型の3通りに分類した。

拠点港がトータルな「松」型として機能するには、部品製造に適したさまざまな産業が周囲に集積していて、海底地盤の強度など港湾としてのインフラも十分に整備されている必要がある。「梅」型の場合、産業集積などはかならずしも必要ではなく、むしろ風車部品の国際分業による調達を意識することになる。

この考え方の枠組みをもとに、研究グループは、東京大学の大学院生を対象とする海洋学際教育プログラムの実習授業「海洋問題演習」で観察対象にしている秋田県の洋上風力発電事業について考察した。

その結果、部品製造ではすでに欧州、中国市場が優勢になっていること、主要パーツの組み立てにはそれに特化した港湾インフラ整備が必要だが、そのコストの回収は難しいこと、秋田県の地元製造業の構成は風力発電関連部品の製造に適していないことなどから、部品の製造はせず、組み立ても最終工程に限る「梅」型が適当とした。

そのうえで、秋田県が進める風力発電事業の課題として、港湾整備の長期的な事業計画をたてること、地元工業高校などでの人材育成を具体的に検討すること、長期的なビジョンを行政や民間企業、市民が共有すべきことなどを挙げた。

文責:サイエンスライター・東京大学特任研究員 保坂直紀

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