研究者発の海の話研究者発の海の話

日本の沿岸域海洋モニタリング状況

カテゴリ 陸と海のつながりと海洋生態系
掲載日 2010.04.19
新領域創成科学研究科 高橋鉄哉 ・ 生産技術研究所 福場辰洋

 日本における組織的な沿岸域の海洋モニタリングは、1971年に施行された水質汚濁防止法第15条により、都道府県知事は公共用水域及び地下水の水質の汚濁の状況を常時監視することが定められて以来、過去40年にわたり実施されてきた。重金属、富栄養化関連物質のモニタリングを目的としたこの歴史的資料は、数多くの重要な知見の基礎資料となり、複数の研究分野の発展に多大な貢献があった。一方で、行政決定における科学基礎として判断材料に使用されるには、モニタリング手法等にさまざまな課題が指摘されている。主要な課題には、水系が連続して接続しているのに対して、観測点は行政区分により区切られ調査日・調査区に連携がないこと、測定項目が水質に特化して生態系を評価することが困難なことがあげられる。また、2005年の三位一体補助金改革により、地方公共団体の水質常時監視に対する国の補助制度が廃止され、適正な環境モニタリング実施体制の維持が困難になることが危惧されている(東京湾モニタリング研究会、2008)。

 また、沿岸漁業を中心とする近年の世界的な漁獲量の減少に代表されるように、日本においても水質改善にも関わらず、漁獲量の減少、ヒラメなどの高価な底性魚類の減少、イワシ類などの安価な浮魚増加など生態系の変質が報告されるようになった(環境庁水環境研究会、1996)。このため、現在では、日本を含めて生物多様性の維持と生態系モニタリングが世界的な潮流となっている。しかしながら、水質・生物モニタリングや陸域・海域同時モニタリングは個別に実施され、包括的な枠組みはほとんどない。海洋で起こる問題は、陸域の影響と海域での物理・化学・生物学的プロセスの複合現象との結果として生じ、個別に行われる従来の調査手法では、その影響評価を困難なものとしている。

図1 東京湾一斉調査の測点

図1 東京湾一斉調査の測点 (東京湾環境情報センターのデータを元に作成) [図を拡大]

 このような背景を受けて、近年、我が国では、東京湾再生推進会議のように関係機関の連携のもとに新しいモニタリングの形態が提唱されつつある。東京湾再生推進会議が主催する東京湾一斉調査では、国、沿岸自治体、大学・研究機関、市民団体、企業、小学校等の47の機関・団体が連携して、河川から海洋まで流域全体を包括する605測点(河川316地点、湖沼1地点、下水処理場64地点)において、共通項目の同時観測を行っている(図1)。


Contents
研究者発の海の話
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漁村を活性化するのは「心」なのか「環境」なのか?
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我が国の離島の保全・管理や振興
海面上昇に対する沖ノ鳥島の維持
「海」から展開する情報プラットフォームとネットワーク
海洋深層水の利用
うみあるきとは?-システム開発の目的と方針
現代の海賊問題と日本
沿岸域利用についての合意形成メカニズムの評価検討
次世代海洋研究者の育成
陸と海のつながりと海洋生態系
大学における学際的海洋教育研究
漁業をまもる先端技術
海底に眠る鉱山—熱水鉱床
海洋に関わる諸活動のコスト・ベネフィット評価
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