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海面上昇に対する沖ノ鳥島の生態工学的維持

カテゴリ 海面上昇に対する沖ノ鳥島の維持
掲載日 2011.12.26
理学系研究科地球惑星学専攻 青木健次
海洋アライアンス 福島朋彦
理学系研究科地球惑星学専攻 茅根創

 海面上昇の危機に直面している沖ノ鳥島に対して、我々は従来の人工物による対応策とは異なる自然的方策の提案を行っている。この中でとくに重要な点は、沖ノ鳥島に「州島」を作るための道筋を示すことである。しかし、沖ノ鳥島だけを調べていても解決策は見えてこないため、現存する州島を調査しその形成過程を追跡することにした。先行研究の結果から、州島の下部には礫質の層が観察され、その上部に粒径の細かい砂が堆積していることが分かっている。そこでまずは礫が堆積する条件に着目し、サンゴ礫から成る西表島北東にある「バラス島」の調査をおこなった。

図1 バラス島全景

図1 バラス島全景

図2 バラス島周囲の枝状ミドリイシ属

図2 バラス島周囲の枝状ミドリイシ属


 バラス島はサンゴの礫が積み上がることで常に干出している陸地となっており(図1)、堆積物の多くが棒のような細長い形状をしていた。また潜水調査の結果、枝状のミドリイシ属が周囲に大量に棲息していることも確認できた(図2)。つまり、海面下に棲息しているサンゴが高波浪によって破壊され、そのサンゴ礫が運ばれることで陸地を形成するほどになったのだ。周囲を見渡しても、バラス島のようなものは見られず、非常に特異的な地形であることが窺える。

図3
バラス島の変化

図3 バラス島の変化

 では、このバラス島はいつ拡大したのか?これを知るために、過去の空中写真や衛星画像を収集し経年変化を調べ、その時期と要因を探った。私達が入手した中で最も古い資料である1963年撮影の空中写真では、すでに存在していたことが確認できた。その後1994年には2つの島があり、2006年には現在のような南北に細長い1つの島ができている(図3)。この3枚の空中写真の間を、衛星画像を用いて詳細に調べた結果、1998~1999年に急激に拡大したことが推定できた。この原因として考えられるのは1998年に起きた大規模なサンゴの「白化1)」現象であり、白化後に多くの群体が死亡した観察結果が報告されている。死亡後に骨格が脆弱な状態になり、波浪によって破壊されやすくなることで、サンゴ礫の供給量が増加したために、バラス島が拡大したことが推測される。

図4 砂が干出した実験例 水槽をa)側面から撮影
図4 砂が干出した実験例 水槽をb)上から撮影


図4 砂が干出した実験例 水槽を a)側面から b)上から撮影

 ここまで述べてきたことは主に、島の材料となるサンゴの「生物的」な側面についてである。ミドリイシ属という成長速度の早いサンゴ、そして白化という生態系の撹乱、これらがバラス島形成に有利に働いたことを推察した。しかしサンゴ礫の運搬・堆積過程の「物理的」側面に関しては、依然として解明されていない点が多い。そこで、堆積条件を明らかにするために、波浪条件、水深、流況の3つのパラメータを変化させ、断面水槽実験を行った。その結果、リーフ上での「流れ」が堆積の可否を顕著に分ける要素であることが分かった(図4)。入射波が砕波することによりリーフ上で流れが発生し、その流れが強い場合は砂が堆積せずにリーフ後方に流されてしまった。一方、リーフ上での流れが弱ければ堆積が確認できた。この結果をすぐに現地に当てはめることはできないが、バラス島が現在ある位置では、海底地形や自然営力のバランスによって、堆積可能な適当な流速まで低下していることが予想できる。今後は平面的な視点から、サンゴ礫の堆積過程において、各パラメータがどの程度寄与しているかを明らかにしていく。

図5 バラス島形成の概念図

図5 バラス島形成の概念図
[図を拡大]

  今回調査したバラス島は地形的な要素、生物的な要素、物理的な要素などの自然条件がうまく複合した結果、陸地を形成するに至っている(図5)。今後も現地調査・実験を継続し、詳細なサンゴ礫の堆積過程を解明し、その上で得られた知見をもとに、沖ノ鳥島で州島を形成するプロセスを今後明確にしていく。同島の自然環境は厳しく、困難を極める問題ではあるが、一刻も早い具体的な適用策についての議論が求められる。


(注1)白化:サンゴと共生している褐虫藻がサンゴ体内から放出されることで、サンゴ骨格が剥き出しになる現象。主要因は高水温。1998年の白化は世界的規模のもので、白化後に斃死する群体が多く観察されている。

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