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学際的な海洋教育とはなにか(その3.「学際海洋学」と「学際的海洋教育」)

カテゴリ 大学における学際的海洋教育研究
掲載日 2010.04.19
大気海洋研究所 野村英明 ・ 農学生命科学研究科 古谷研

1. 「学際海洋学」の提唱

図1 学際海洋学の概念図

図1 学際海洋学の概念図
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 今日求められている学際研究あるいは学際的学問分野の多くは、人間社会の抱える問題を解決するためのものとして分類される。海洋における諸問題も同様である。例えば、地球温暖化による海面上昇や北極海における海底資源開発、高度回遊性水産生物の保護と利用、海賊対策、海底地震・津波への防災などが挙げられる。したがって、社会の要請に科学的な合理性を持って応えるための「海洋において人間活動によって生じる様々な問題を解決するための学際的総合科学」をここでは学際海洋学とする。

 学際海洋学の基盤となるのは海洋学である(図1)。海洋学自体も学際的で様々な専門分野で構成されているが、海洋に関わる現在、あるいは将来にわたる問題解決に正対する学際海洋学には、海洋生態系の理解が不可欠である。さらには、海とは物理的化学的にどのようなものか、海洋と陸の生態系の根本的な違いはどういうものか、二酸化炭素の吸収や陸域気候への影響などの海洋からの恩恵にどのようなものがあるか、海洋は今どのような現状におかれているか、といったことが学際海洋学の基礎と言い換えることができる。

2. 「学際的海洋教育」の必要性

 海洋問題の解決という社会からの要請に大学が応えるには、研究と教育の両面からの学際海洋学への取り組みが必要である。日本は海に囲まれ、多大な恩恵を受けて発展してきた。しかしながら日本では2007年7月に海洋基本法が施行されるまで、海に関わる問題を扱う省庁を包括的に横断した海洋関連法の整備はなかった。同じことが海洋問題に対応するための教育にもいえる。大学の授業において、「海洋○○学概論」や「○○海洋学」といった教科書はあるが、海に関わる時事事象を網羅的に説明した学際的な教科書は見あたらない。

 海洋を国の存続基盤とした国家を海洋国とするならば、日本はその資格を十分有している。海洋基本法の精神に則れば、国際的な海洋に関わる議論を先導し、研究機関の量的質的充実を図り、海洋に関連のある国際機関に積極的に専門知識のある人材を送り込み、世界に貢献するための体制づくりに資本を投与することが政策として求められる。これらの活動を通じてこそ、国際社会に先んじて、日本が海洋における管理秩序を先導的に提言していくことが可能になる。このためにこそ、国際と学際の両方を兼ね備えた学際的海洋教育がある。

 日本は1996年7月に「海洋法に関する国際連合条約」を批准した。これを機に、国際情勢は変化し、全海洋の4割が沿岸国のいずれかの管轄下に置かれることとなった。時期を同じくして、経済発展の著しいアジア、特に中国の経済成長に伴う海運の活発化や陸棚資源開発といった難しい課題に直面している。海洋が、誰でも自由に開発利用できる時代は過去のものとなり、国際協調をリードする、専門性の高い即戦力の養成が大学には求められている。そのためには、新しい要請に則したカリキュラムと資源を持つ大学/大学院海洋教育システムが必要である。これにより、自らの専門知識を生かしつつ、海洋における種々の問題に主体的に取り組み、学際的な広い視野を持って柔軟に判断し、国際社会において活躍できる能力を伸ばす教育を実施する。そこでのキーワードは、高度な専門性、広い視野、国際機関などでのリーダーシップ、コーディネーション(調整)能力である。具体的には、基礎学問分野としての海洋学、海洋資源(生物・非生物)、国際政治学、経済学、行政学など多分野にわたる大学教員間の共通理念を共有し、個々の教育力・研究力の増強、各分野の関連性に重点を置いた教科書の作成、ゼロベースからのカリキュラム構築など課題は少なくない。海洋基本法第28条の2には、人材育成を図るため、大学等において学際的な教育および研究が推進されるよう必要な措置を講ずるよう努めるものとある。まさに教育への公的な予算的支援や、修了後の人材の活用に日本は踏み出したと言える。

Contents
研究者発の海の話
水産業の振興に向けた海の「砂漠化」対策
海溝というもの
漁村を活性化するのは「心」なのか「環境」なのか?
高性能な船を実験水槽で開発する方法をウェブでわかりやすく説明する
地球温暖化だけでサンゴ礁の国は水没しない
海中ロボットで海を身近に
河川の構造物はニホンウナギの行く手を阻んでいるか?
「赤潮」の頻発と養殖漁業 ~インドネシア・ランプン湾を例に~
大学における学際海洋教育を推進するための基礎データ
島嶼(とうしょ)における海洋保護区のあり方と意義
海洋生物の多様性保全と利用を考える
海を守る、地球を守る
我が国の離島の保全・管理や振興
海面上昇に対する沖ノ鳥島の維持
「海」から展開する情報プラットフォームとネットワーク
海洋深層水の利用
うみあるきとは?-システム開発の目的と方針
現代の海賊問題と日本
沿岸域利用についての合意形成メカニズムの評価検討
次世代海洋研究者の育成
陸と海のつながりと海洋生態系
大学における学際的海洋教育研究
漁業をまもる先端技術
海底に眠る鉱山—熱水鉱床
海洋に関わる諸活動のコスト・ベネフィット評価
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