研究者発の海の話研究者発の海の話

高性能な船を実験水槽で開発する方法をウェブでわかりやすく説明する

掲載日 2016.06.27
東京大学大学院工学系研究科助教 満行泰河

東京大学は、船の設計に重要な「船型試験水槽」と「キャビテーションタンネル」の両方を持つ日本で唯一、世界でも数少ない大学である。これらの設備を使って、より性能の高い船を研究、開発する船舶海洋工学における教育効果の高いコンテンツを作成し、ウェブ上で公開することはできないものか。もしそれができれば、学生だけでなく、農学や理学など他分野の研究者にとっても有用なはずである。

そこで、学外の研究者などを対象としてふだんから行っている公開講座や公開実験の内容を整理、検討したうえで、必要な実験を新たに行い、教育コンテンツとしてウェブ上で公開することができた。

船を開発するための実験装置

東京大学の船型試験水槽
図1 東京大学の船型試験水槽
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キャビテーションタンネルにおける実験の様子
図2 キャビテーションタンネルにおける実験の様子
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船型(せんけい)試験水槽(図1)とは、船が水から受ける力や、その際に生じる流れ、航行する船がつくりだす波などを、水をはったプールで模型を使って調べるための実験装置だ。船の実物は非常に大きいので、その開発段階では、同じ形をした小さな模型を用いて性能を調べるのがふつうである。こうして、より適切な船の形、つまり船型を探っていくのだ。船ばかりではなく、洋上風車などの海洋構造物について実験することもある。

もうひとつのキャビテーションタンネルは、船のスクリューに使われるプロペラに関する実験装置だ。プロペラを水中で回転させると、プロペラの翼のごく近くで圧力が急変し、泡が発生したり消滅したりする(図2)。この現象を「キャビテーション」という。キャビテーションは、プロペラの推進力を損なったり、プロペラの翼に穴や亀裂が入ったりするので、できるだけ起きないようにしたい。その方法を実験的に調べるため、水を満たしたトンネルの中でプロペラを回す実験を行う。これがキャビテーションタンネルだ。「タンネル」とはトンネルのことだが、ここでは、この研究分野の慣例にしたがって、タンネルと呼ぶことにしたい。

模型実験に特有の難しさ

船やプロペラを開発するために模型を使って水槽で実験するには、じつは特別な工夫が必要だ。もし形を同じにした100分の1の大きさの模型で実験したとしても、水から船に加わる抵抗力、船の周りにできる水の流れなどが、そのまま100分の1になるわけではないからだ。

水や空気のような流れる物体を「流体」という。そこに力が加わったとき、流体がどのように動くのかを研究する学問分野が「流体力学」だ。進んでいく船や回転しているプロペラにどのような力が加わるかを調べるのも、この流体力学の仕事だ。

流体と、その中を動く物体の間には、おもしろい関係がある。たとえば、こぶし大の木の塊を手から放すと、そのままストンと地面に落ちる。ところが、これを細かいおがくずに砕いて同じことをすると、わずかな風にでも流されて舞ってしまう。おがくずの場合は、まるで空気の粘り気(これを「粘性」と言う)が増して、その力で引きずられるかのように、風で流れてしまうのだ。つまり、流体は、小さくて勢いのつきにくい物体に対しては、粘り気が増したような働きをする。

これはすなわち、大きな実物の代わりに小さなサイズの模型で実験するときは、より粘性が小さい粘り気の少ない流体を使わなければ、実物の代わりにならないということだ。もし同じ水で実験するなら、このような事情を考慮して、実験結果を補正して解釈する必要がある。

いまここで説明したような、物体のサイズや動きの勢い、流体の粘性をうまく考慮して、実物を使った場合と同様の実験結果を模型で得るためのポイントとなる法則を、「レイノルズの相似則」という。これとは別の「フルードの相似則」という重要な法則もある。

しかしながら、レイノルズの相似則とフルードの相似則を同時に満たす実験環境を整えるのは非常に難しいため、実験での計測結果と推定手法を併用して結果を算出したり、流体の状況に関して、模型船での実験環境と実機での実験環境をできるだけ近づけるように工夫したりするなど、様々な工夫を行って実験を実施している。

実験のノウハウを改めて整理してウェブで公開

船型試験水槽やキャビテーションタンネルについてこれまで蓄積してきたノウハウを、船舶海洋工学だけでなく、その他の工学分野や農学、理学といった領域での学際的な研究や教育でも広く利用したい。そのためには、公開講座や公開実験に関係する教育コンテンツを、あらかじめ使いやすい形で整えておくことが、とても重要である。さらに、この教育コンテンツをウェブ上で公開し、実験の様子と実験データを外部から閲覧することができるようにすれば、教育・研究の両方の観点から考えて非常に価値がある。

一般公開向けに開発したウェブシステムのトップページ
図3 一般公開向けに開発したウェブシステムのトップページ
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今回の活動では、船舶海洋工学における公開講座・公開実験のための船型試験水槽とキャビテーションタンネルの利用に関する検討を行った上で、教育コンテンツの作成とそのために必要な実験を行い、作成した教育コンテンツをウェブ上に公開した(図3)。

具体的には、まず、船型試験水槽とキャビテーションタンネルの一般的な試験の理論や方法を整理し、それらについて実際の実験結果をもとに説明するウェブページを公開した。

船型試験水槽で一般的に計測する抵抗やプロペラのキャビテーションといっても様々な種類のものがあり、その特性も種類によって大きく変わってくる。このようなことを一般向けにどのように説明すべきかについても、検討した。

また、船型試験水槽における最も一般的な試験である「抵抗試験」(図4)については、基礎となる理論から実際の実験の様子までがわかるウェブシステムを開発し、公開した(図5)。実際に抵抗試験を行ってビデオ撮影し、データも計測したうえで、実験の流れや典型的な実験結果を説明するウェブページ(http://www.nakl.t.u-tokyo.ac.jp/suiso/)を公開した。

抵抗試験を実施している様子
図4 抵抗試験を実施している様子
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開発したシステム上の抵抗試験説明ページの一部
図5 開発したシステム上の抵抗試験説明ページの一部
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今後は、船以外の模型を用いた実験結果やキャビテーションタンネルでの実験結果を追加する予定であり、随時、更新していく。また、船のような複雑な形状ではなく、球などの単純な模型を対象とした実験を行い、理論と実際の結果を比較できるようなページの追加も検討したい。

※東京大学海洋アライアンス・イニシャティブ「船型試験水槽・キャビテーションタンネルを中心とした船舶海洋工学に関する大型施設の教育利用」の研究をもとに執筆しました。
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