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河川の構造物はニホンウナギの行く手を阻んでいるか?

掲載日 2016.06.24
東京大学大学院新領域創成科学研究科/大気海洋研究所助教 三宅陽一

私たち日本人に古くより親しまれてきたニホンウナギ(Anguilla japonica)は、外洋で産まれて河川で成長し、再び産卵場がある外洋へ回遊してその一生を終える。

ニホンウナギが産卵場へ向けて海洋での回遊を開始し、その一生を全うするためには、生息していた河川を海へ向けて順調に下っていく必要がある。しかし、現在の河川には、ダムや堰(せき)などのように、一方の岸から反対岸までの全体をふさいでしまう河川横断構造物が数多く設置されており、それらはニホンウナギの移動の妨げになっているかもしれない。

ここでは、発信機と受信機を利用してニホンウナギを追跡し、河川横断構造物がウナギの移動に与える影響について調査した最新の研究を紹介する。調査の結果、可動式の堰の運用方法や魚道の構造などの違いによって、ウナギの移動への影響が異なる可能性が示された。

ニホンウナギは絶滅危惧種

我が国でニホンウナギは、古くは縄文時代から人々に食されており、日本の重要な水産資源であるとともに、その文化に非常に深く根付いた魚類であると言える。

しかし、その漁獲量は近年激減しており、2013年には環境省のレッドリストに、また2014年には国際自然保護連合のレッドリストにそれぞれ絶滅危惧種として掲載されるに至った。そのため現在、ニホンウナギ資源の保全が緊急の課題となっている。

ウナギは川を下って海に出る

ニホンウナギは、産卵場を太平洋のマリアナ諸島西方海域に持ち、東アジア沿岸の河川や湖沼で成長する「降河性回遊魚」である。降河性回遊魚とは、河川で育った後に海へと下って産卵する魚のことである。

外洋で孵化したニホンウナギの仔魚はレプトセファルスと呼ばれ、北赤道海流と黒潮によって沿岸域へ運ばれる。稚魚であるシラスウナギに黒潮域で変態したあと、日本、中国、韓国、台湾、フィリピンなどの東アジア一帯へ接岸する。

その後、河川に進入したシラスウナギは、成長期にあたる「黄ウナギ」として10年前後を下流から上流までの河川や湖沼で過ごしたのち、成魚にあたる「銀ウナギ」(成熟開始個体)に変態して河川を下る(降河回遊)。そして海洋での回遊を開始し、産卵場がある外洋へ再び達してその一生を終える。

河川の構造物はウナギの移動を妨げるか?

銀ウナギが産卵場へ向けて海洋での回遊を開始し、その一生を全うするためには、その前に、海へ向けて河川を順調に下っていく必要がある。そのため、ニホンウナギ資源を保全するためには、海岸の近くや河川で生活している期間の生態を理解する必要がある。とくに、河川での銀ウナギの降河回遊は、海洋での産卵回遊開始の成否を直接決定する重要な行動であるため、本種資源の保全にとってその理解は欠かせない。

現在の河川には多くのダムや堰などの河川横断構造物が設置され、海洋へ向かう銀ウナギの降河に影響を及ぼす可能性が懸念されている。事実、ニホンウナギと同様に資源減少が著しいヨーロッパウナギ(A.anguilla)では、水力発電ダムのタービンや取水口にウナギが取り込まれて死んだり、構造物により回遊に遅れが出たりすることが産卵回遊の成否に影響を与えていると報告されている。そのため、横断構造物が銀ウナギの降河に与える影響について早急に評価し、影響が生じている場合には対策を急ぐ必要がある。

超音波発信機でウナギの降河を調べる

私たちは、超音波バイオテレメトリーという方法を利用して、関東の利根川でニホンウナギの銀ウナギを追跡し、堰が銀ウナギの移動に与える影響を検討した。超音波バイオテレメトリーとは、超音波を発する発信機(図1)を生物に装着し、受信機(図2)でその信号を受けることによって、移動する生物の情報を得る調査手法である。

今回の調査では、利根川の中流域から河口にかけての約170kmの区間に調査地点を複数設け、各地点に受信機を設置した。この川で捕獲した銀ウナギに麻酔をかけた後、発信機を装着して上流から放流した(図3)。発信機を装着したウナギが各受信機の受信範囲内を通過した際、「どのウナギがいつ通過したか」が受信機に記録されるようになっている。

銀ウナギは、2015年12月に2地点で放流した。1地点目は利根大堰(河口から154km地点)よりも上流の水域、2地点目はそれより下流で、利根川河口堰(18.5km地点)と利根大堰の間の水域である。

インドネシア・ランプン湾
図1 小さな超音波発信機をウナギの体に埋め込む
拡大図
ランプン湾の漁港
図2 ウナギから来た超音波をキャッチするための受信機
拡大図
ランプン湾の魚市場
図3 発信機をつけたウナギを放流する
拡大図

堰により違うウナギへの影響

その結果、上流の1地点目から放流したウナギの大部分は、利根大堰よりも下流の地点で確認されることはなかった。これらの個体は、利根大堰を通過して下流に移動することができなかったものと推察される。

その一方で、2地点目から放流したウナギのうち数個体は、利根川河口堰のすぐ上流の地点で確認され、さらにその全ての個体が、河口堰より下流の河口周辺まで移動していた。銀ウナギが河口堰を通過したとき、河口堰の水門は全9門中1門以上が開放されており、銀ウナギはその水門を通って下流へ移動できたものと推察される。また、河口堰を通過したウナギの中には、水門ではなく魚道を利用して下流へ移動している個体も確認された。

以上より、銀ウナギは開放された水門あるいは魚道を利用して下流へ移動しており、利根川河口堰は、その構造や運用方法が銀ウナギの下流への移動をある程度可能にしているものと考えられる。

ウナギと構造物の共存に向けて

今回の調査により、銀ウナギの下流への移動を阻害している可能性がある堰と、ある程度移動を可能にしている堰の存在が見えてきた。今回対象とした堰はどちらも可動式であり、魚道を有している。堰の運用方法や魚道の構造などの違いによって、ウナギの移動への影響が異なる可能性があるが、詳しいことは現時点では明らかになっていない。このため、今後、堰の運用方法や魚道の構造などと銀ウナギの移動との関係を詳細に調べていくことが重要であり、そのような研究の積み重ねこそが、河川におけるニホンウナギ資源の保全への第一歩であると考えている。

※東京大学海洋アライアンス・イニシャティブ「ニホンウナギの保全に向けた汽水域における降河回遊行動のモニタリング」の研究成果をもとに執筆しました。

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