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「赤潮」の頻発と養殖漁業 ~インドネシア・ランプン湾を例に~

掲載日 2016.06.15
東京大学アジア生物資源環境研究センター准教授 岩滝光儀
東海大学海洋学部海洋文明学科准教授 脇田和美

これからますます人口が増えると予測される東南アジア諸国の沿岸では、食料となるタンパク質の供給源として、養殖漁業がいっそう盛んになると見込まれている。それとあわせ、沿岸陸域のさらなる開発の進展も予測されている。その結果として懸念されているのが、海の富栄養化などに起因する有害な微細藻類発生の頻発と広域化である。

養殖漁業に被害を与える「赤潮」

インドネシアのランプン湾(図1)は、沿岸陸域への人口の集中と養殖漁業の発展などによる沿岸環境の悪化が顕在化しつつある、典型的な東南アジアの湾の一つである(図2~3)。この湾では近年、植物プランクトンの大量増殖、つまり赤潮の発生と、それにより魚などが死んでしまう魚類被害が増大しており、現地関係者の赤潮対策に関する意識も高まってきている。

インドネシア・ランプン湾
図1 インドネシア・ランプン湾
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ランプン湾の漁港
図2 ランプン湾の漁港
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ランプン湾の魚市場
図3 ランプン湾の魚市場
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有害赤潮原因渦鞭毛藻
図4 有害赤潮原因渦鞭毛藻
Cochlodinium polykrikoides
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赤潮は、自然環境に存在する微細な藻類が大量に増殖する自然な現象であり、すべての赤潮が有害なわけではない。しかし、ランプン湾で近年赤潮の原因となっている渦鞭毛藻Cochlodinium polykrikoides(図4)、この湾では過去に観察されていなかったもので、東南アジア諸国での広域化が懸念されている有害な植物プランクトンである。したがって、ランプン湾は、この種が新たな環境に定着するメカニズムや、それに伴う経済的なインパクトを理解するための好適な事例といえる。

この研究では、これまでに蓄積してきた赤潮の発生機構に関する自然科学的な知見をもとに、ランプン湾を事例として、沿岸域の利用開発と海洋環境保全とのバランスのとり方について総合的に検討した(図5~6)。具体的には、人工衛星から撮影した写真を使って沿岸域利用の変遷を把握し、さらに、赤潮が地元の経済に与えるインパクトを明らかにするため、関係者へのヒアリング調査を行った。

ランプン海洋養殖センターでの情報交換
図5 ランプン海洋養殖センターでの情報交換
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漁業者からの情報収集
図6 漁業者からの情報収集
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大きな経済的損失

ランプン湾沿岸域の衛星写真
図7 ランプン湾沿岸域の衛星写真
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人工衛星写真を解析した結果、ランプン湾の西部湾奥を中心とする沿岸域のエビ養殖池の面積は、1988年の約70haから、2006年には約200ha、2015年には約250haと、17年間で3倍以上に増加していることがわかった(図7)。

ランプン海洋養殖センターによると、ランプン湾では、過去にも赤潮が発生してはいたが、大規模な漁業被害は確認されていなかった。しかし、2012年10月、C. polykrikoidesによる大規模な赤潮が初めて発生し、養殖魚が大量に死んだ(図8)。今回ヒアリングを行ったランプン湾の養殖業者の場合、1養殖業者あたり約600~1500尾の魚類が死に、4養殖業者の合計は約3900尾に上った。

ランプン湾での有害赤潮原因渦鞭毛藻Cochlodinium polykrikoidesの発生状況
図8 ランプン湾での有害赤潮原因渦鞭毛藻
Cochlodinium polykrikoidesの発生状況
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この被害を金額に換算すると、1養殖業者あたり900万~1200万ルピア(1ルピアは約0.01円)となる。1養殖業者あたりの月収が250万~1500万ルピアであることを考慮すると、赤潮による魚類への被害が養殖業者に与える経済的損失は少なくないといえよう。

広域化の懸念

渦鞭毛藻C. polykrikoidesは、主に西日本や韓国南岸、そして北中米の沿岸で赤潮形成による漁業被害を記録しているが、2000年以降にはマレーシアのサバ州やフィリピンのパラワン島にも出現して魚類に被害を与えており、その分布域の拡大が懸念されている有害な赤潮の原因種である。ランプン湾では、本種がその初出現から2015年まで継続して赤潮を形成しているため、今後も漁業被害が続くのではないかと懸念されている。

今後は、沿岸域の土地利用の変化と海洋環境データの変化を照合することにより、沿岸開発と海洋環境との関係について、さらに考察を深めていきたい。

※東京大学海洋アライアンス・イニシャティブ「東南アジア沿岸域における利用開発と海洋環境保全のあり方 ~インドネシア・ランプン湾を事例として~」の研究成果をもとに執筆しました。

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