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学内講演会「国際機関へのキャリアパスとインターンシップ」が開催されました(2022/07/09)
東京大学の大学院生を対象とする「海洋学際教育プログラム」の海外インターンシップ制度を学部学生などに紹介する学内講演会「国際機関へのキャリアパスとインターンシップ」が2022年7月9日、東京大学農学部の中島董一郎(なかしま・とういちろう)記念ホールで開かれた。国連機関などで働く職員やインターンシップを経験した学生が、国際機関での仕事や体験を紹介した。新型コロナウイルスの感染拡大により2020、2021年はオンラインで実施したため、今回は3年ぶりの対面開催になった。
国際機関へのキャリアパスを紹介する「海洋学際教育プログラム」の学内講演会
海洋学際教育プログラムでは、海洋物理学や生物学、海洋法などの講義科目を用意し、海洋についての文理横断的な教育を行っている。広く社会に目を向けて海洋がかかわる問題を知り、その解決に向けた方策をみずから考える現場重視型の教育プログラムだ。海外インターンシップはその大きな柱になる制度で、コロナ渦まえは、国連食糧農業機関や国連工業開発機関、ユネスコ政府間海洋学委員会などに毎年計5~6人を、日本財団の支援により費用負担なしで実習生として2~3か月にわたって派遣してきた。
大切なのは企画力と行動力、そしてプレゼン力
ウィーンに本部がある国連工業開発機関(UNIDO)。そこの環境部で工業開発専門官として働く西尾なほみさんは、「国際機関で働くということ」のタイトルで、海洋プラスチック問題などに取り組む日常を具体的に紹介した。
UNIDOは、もともと国連の一部局として発足し、1985年に国連専門機関として独立した。運営資金はニューヨーク本部の国連とは別建てだ。開発途上国や市場経済に移行しつつある国などで、包摂的で持続可能な産業開発の促進を助け、持続的な経済発展を支援することを目的とする機関だ。したがって、こうした支援が必要ない国、たとえばアメリカとかカナダといった先進国はけっこう抜けている。日本はまだ加盟国だ。
いま、海洋プラスチック問題をサーキュラーエコノミーを通して解決するプロジェクトに取り組んでいる。これは、海の問題のようだが、根本的な原因は陸にある。日本では廃棄物の管理システムが整っているが、たとえばアフリカの国々には、そうしたシステムがあまりない。焼却さえせず、埋め立て地にたまっていく一方だ。それどころか、そのへんの空き地に野積みされていることもある。
アフリカでは、廃棄物管理システムはほぼ未整備だといってよい。産業はそんなになくても人口は多いから、消費は多い。それが、ごみになる。人口は増えている。ごみももっと増える。UNIDOは産業開発の機関なので、廃棄物処理の支援はしない。資源の循環は産業であるという視点でかかわっていく。容器や包装の素材を替えるとか、違うビジネスモデルを作るとか。そういう支援をエジプトやナイジェリア、ケニアなどで進めている。
日常の仕事は、オフィスでものを書いたりミーティングをしたり。プロジェクトの提案をして、お金をもらい、それを実施して、モニタリングして報告する。そして、つぎのプロジェクトを考える。
地球温暖化の抑制に向けては、各国が二酸化炭素の排出を減らす約束として「パリ協定」がある。だが、プラスチックごみについては、それがない。プラスチックごみの削減に向けた国際的な協議はこれから始まるところで、そのための情報提供もしている。
大学を卒業して広告代理店に入った。顧客を外国のサンゴ礁に案内したとき、本来はあるはずのない藻のようなものがそこに生えていた。隣にはごみ捨て場があって、ごみが放置されていた。それで海が富栄養化してしまったようだ。それを見て、政府と環境問題を考えていくような仕事もいいなあと思い、国際的な公共政策を専門とする大学院に入った。
国連での仕事を視野に入れた活動をしていたところ、たまたま大学院のときの友人が国際協力銀行(JBIC)に誘ってくれた。その後、ウィーンで子育てをしながら博士論文の執筆を始め、UNIDOでコンサルタントの仕事を手に入れた。そして、いまはスタッフメンバーとしてプロジェクトのマネジメントをしている。
いまの仕事に役立っているスキルは、広告代理店時代に身に付けた企画力と行動力、プレゼン力だろうか。プロジェクトを企画してコンセプトをまとめ、プロポーザルを書き、それを売り込んでお金をもらうというのは、けっこう大変な仕事で、あの時代があったから、いま自分の仕事ができているように思う。
高度な専門性がなければ生き残れない
国連の国際原子力機関(IAEA)でマネジメント局上級人事担当官を務めた同志社大学大学院ビジネス研究科教授の井上福子さんは、「国際的なキャリアづくりのために」をテーマに、国際機関に職を得るまでのさまざまな道筋を紹介した。
日本の大学を卒業して日本の企業に就職し、それから経営学修士を目指して海外の大学に行った。博士号は日本の外資系企業で働きながら社会人学生として取得した。その後、2013年から2018年までの5年間、ウィーンのIAEAで働いた。
国際的なキャリアといっても、いろいろある。外務省に入って大使や公使になる。日本の省庁の職員として国際機関に出向する。国際機関の正規職員になる。あるいは、専門的なコンサルタントして、国際的なプロジェクトに参加する。外資系企業の本社で働く。国際的な民間活動団体で働く。海外の大学や研究所で教授や研究者になる。
IAEAを例に、もっと具体的な話をしよう。IAEAには、マネジメント局、ニュークリアセキュリティー局、ニュークリアエネルギー局など六つの局がある。対応する業務はきわめて広いが、それぞれの局の中では、その専門性をとても深く追求する。全員がその道のプロだ。
こうした国際機関で働くまでの道筋を、IAEAに関係した何人かの実例でお話ししたい。
まず一人は、若者に国際機関での勤務を経験させる外務省の「Junior Professional Officer(JPO)」という制度を利用してIAEAに来た人。日本の大学を卒業してスペインの大学で修士号を取り、企業広報や安全衛生に特化したシンクタンクで経験を積んだ。そうした専門知識、コミュニケーションのスキルを身に付けたうえでJPOに選ばれている。IAEAの職員カテゴリーでJPOは下から2番目だが、その段階ですでに専門性が求められている。国際機関は、ほんとうのプロでなければ生き残っていけない世界だ。
もう一人は、国際機関を渡り歩いている人だ。学生時代から交換留学で海外の経験を積み、米国の大学で修士号を取っている。この人の専門はプロジェクトマネジメントだ。プロジェクトを管理するには、そのプロジェクトの専門分野をよく知っていることも必要だが、マネジメントの経験やスキルがきわめて大切だ。このスキルは、どの機関に行っても生きてくる。
そして、チェロの演奏が趣味で、地元のオーケストラにも参加して、ウィーンが大好きな人。この人のキャリアは華々しいけれど、そんなことを露ほどにも見せない。研究職から部門の部長になった。IAEAの部門の部長にはなかなかなれるものではなくて、たいへんな競争を経なければならない。IAEAには最大7年在籍できるという「7年ルール」があって、いちど日本に戻ってから、ふたたび部長として戻ってきた。
国際機関は、幅広い分野の専門家を必要としている。みなさんがどのような専門家になっても、国際機関のどこかに、自分にフィットするポジションがあるかもしれないということだ。
学生時代のインターンシップは、国際機関で働くためのきっかけとして好適だ。国際機関がどう動いているのかがわかる。コネクションを作るのもいいだろう。もしかすると、自分に向いていないと思うこともあるかもしれない。そういう見極めのためにも、国際機関でのインターンシップ経験には価値がある。
英語で仕事をしなければならないので、ぜひ海外で勉強する経験をしてほしい。ほとんどの日本人は英語を日本語のようには使えないだろうから、英語で仕事をふつうにできるようになるために、いちど海外で仕事をしてみるのもよいかもしれない。
国際機関で働くには、修士以上の学位が必要だ。それも、修士でなくて博士の学位。海外では、博士と修士の差は非常に大きい。研究系の職でも、博士の人は研究者として扱われるが、修士だと、そのサポートの人という位置づけになってしまう。国際機関にチャレンジしたい人は、ぜひ博士の学位を取ってほしい。
国際機関にはさまざまなキャリアパスがある
外務省総合外交政策局国際機関人事センターの栗原真由花・課長補佐は、「Junior Professional Officer(JPO)」の制度を中心に、海外に職を求める方法についてオンラインで説明した。
国際機関人事センターは、国際機関に就職を目指す日本人に対するさまざまなサポート業務を行っている。約50年まえから実施しているJPOの派遣制度 https://www.mofa-irc.go.jp/jpo/seido.html も、そのひとつだ。「J」はジャパンを示すのではない。日本独自の制度ではなく、いろいろな国が実施している派遣制度に日本も参加している。日本では、日本国籍の35歳以下で、修士号を持っていることと、2年以上の職務経験、英語で職務が遂行できることが条件になっている。職務経験にボランティアは含まれないが、青年海外協力隊や国際協力機構(JICA)が実施しているもののように、含まれる場合もある。
国連ボランティア計画(UNV)という制度もある。それぞれの国にある国連事務所の代表だった人などが参加している。8割の人が自分の国で勤務している。ボランティアといっても、月に最低2000ドルが支給される。専門性が高かったり、配偶者がいたりすると加算される。
いま国際機関で働いている日本人は900人ほどで、そのうち半分がJPOによる派遣だ。残りの半分は、国際機関の空いているポストを探して、自分で応募している人たちだ。JPOとは違って年齢制限はない。書類審査、筆記試験、面接などを経て合格者が決まる。すべてが正規職員のポストではなく、任期付きや短期雇用、コンサルタントとしての雇用などさまざまな契約形態がある。
国際機関の場合は、新人研修というものが一切ない。勤務の初日から即戦力となることが求められている。そのため、JPOと同様に、ふつうは勤務経験が必要だ。その組織の上のポストにいきたい、あるいは他の国際機関に移りたいときは、空席を見つけて自身で勝ち取っていく必要がある。世界中から応募があるので、非常に倍率が高くなるポストもある。国際機関人事センターのホームページにも、つねに200~300件の空席情報を掲載している。
国際機関人事センターでは、こうした空席情報のほか、国際機関で働いた経験者によるセミナーなどの開催情報も、ホームページやSNSで発信している。ぜひ活用してほしい。
このほか、海外インターンシップを経験した修了生二人が、国連食糧農業機関(FAO)、国連工業開発機関での仕事や暮らしについて紹介した。
文責:サイエンスライター・東京大学特任教授 保坂直紀
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