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学内講演会「国際機関へのキャリアパスとインターンシップ」を開催(2019/12/22)
東京大学の大学院生を対象とする「海洋学際教育プログラム」の海外インターンシップ制度を学部学生に紹介する学内講演会「国際機関へのキャリアパスとインターンシップ」が2019年12月22日、東京大学農学部の中島董一郎(なかしま・とういちろう)記念ホールで開かれた。国連機関などで働く職員やインターンシップを経験した学生が、国際機関での仕事や体験を紹介した。
海洋学際教育プログラムでは、海洋物理学や生物学、海洋法などの講義科目を用意し、海洋についての文理横断的な教育を行っている。広く社会に目を向けて海洋がかかわる問題を知り、その解決に向けた方策をみずから考える現場重視型の教育プログラムだ。海外インターンシップはその大きな柱になる制度で、国連食糧農業機関や国連工業開発機関、ユネスコ政府間海洋学委員会などに毎年5~6人を、日本財団の支援により費用負担なしで実習生として2~3か月にわたって派遣している。
「大切なのは、国際機関で自分が何をしたいのかということ」
国連工業開発機関(UNIDO)環境開発部の西尾なほみ工業開発専門官は、UNIDOで働くことになるまでの道すじを紹介した。日本の大学を卒業して国内の広告会社に就職し、その後、米コロンビア大学の修士課程に入学。職を変えながら、そのころ住み始めたウィーンでUNIDOに求職の問い合わせをし、たまたま日本人が必要とされていたので就職に結びついたという。
開発途上国の産業を支援するUNIDO。西尾さんは、そこでいま取り組んでいる仕事として、海洋プラスチックごみ対策を例に話を進めた。アフリカ諸国のように、人口が急増しているにもかかわらずごみ処理システムが整っていない地域では、外国から輸入した製品のプラスチック包装を、大量にごみ捨て場に野積みしておくことになる。これが川に流れ込み、海を汚す。放置すれば状況が悪化することは目に見えているので、その対策を新しい産業の育成機会ととらえて活動していると紹介した。
西尾さんは、「さまざまな職歴を経てUNIDOに来たことは、けっしてむだではなかった。国際機関に入ることを目標とするのではなく、そこで何をやりたいのかということが、いちばん大事だと思う」と述べた。
「国際的な仕事を肌で感じてほしい」
日本エヌ・ユー・エスの川村始技術理事は、かつてバンコクの東南アジア漁業開発センター(SEAFDEC)で事務局次長を務めた経験をもとに、国際機関の役割について語った。
川村さんは農林水産省に就職。石川県、国際協力機構(JICA)などでも仕事をして、2013年から約3年間、SEAFDECの事務局次長を務めた。SEAFDECは、東南アジアの国々の食料確保、貧困の削減などのため、環境に負荷をかけすぎず持続的に漁業を営めるよう、その管理、開発をしていく機関だ。それぞれの国が土地や建物を提供し、日本が活動費を援助するのが基本形だという。これにスウェーデン、米国などの外国や他の国際機関が域外から協力する。東南アジア諸国連合(ASEAN)と関係が深く、ASEANの水産関係の技術部門としての意味合いももっている。
漁業に関係する特定の事業も進めるが、公的な機関に対する教育も重要な仕事だという。違法できちんと管理されていない漁業への対策も、その一例だ。その撲滅のためにSEAFDECがつくった計画をASEANが認め、そのもとでSEAFDECがトレーニングを行う。
「開発途上国にあるSEAFDECは、現場と密接に触れ合えるという特徴がある。国際機関へ就職するかどうかは別にして、国際的な仕事の場を肌で感じておくのは、とてもよいことだ。海外インターンシップに、ぜひ積極的にトライしてほしい」と川村さんは語った。
自分のキャリアパスを具体的に描くチャンス
国土交通省海事局の木下真里さんは、ウィーンのUNIDOで3か月のインターンシップを経験した。担当部門の総合的な戦略を考える部署で、産業構造の変化へのUNIDOの対応についてレポートにまとめたり、職員が日本で講演する際のスライドを作成したりした。「自分のキャリアのなかで国際機関をどう位置づけていくかを考えるための、とてもよい参考になった」という。
おなじUNIDOで実習し、国際学会でのプレゼンテーションを木下さんとつくった東京大学大学院農学生命科学研究科修士課程2年の中村咲穂さんは、「さまざまなバックグラウンドをもつ人と交流できた」と振り返った。
ローマの国連食糧農業機関(FAO)で実習した東京大学大学院農学生命科学研究科修士課程2年の桃原里沙さんは、それぞれの土地に根づいた歴史的な農業生産のシステムをFAOが認定する「農業遺産」について、その認定が農業にどう役立てられれているか追跡調査した。「本来なら100人に1人しか通らないような狭き門のインターンシップに、海洋学際教育プログラムのおかげで行けた。みんさん、ぜひFAOにも応募してほしい」と述べた。
東京大学大学院総合文化研究科博士課程2年のトゥリン・スアン・トゥルンさんの派遣先はベルギーのユネスコ政府間海洋学委員会(IOC-UNESCO)。ワークショップに参加してオンライントレーニングコースのコンテンツを作成したり、データマネージメントの国際学会で発表したりした。「研究が政策につながってどう社会貢献できるのか、そのしくみを理解することができた」という。
講演終了後にはロビーで懇談会が開かれ、講演の内容について参加者がさらに詳しく講演者に質問する場面もみられた。
学内講演会「国際機関へのキャリアパスとインターンシップ」の懇談会で語り合う講演者と参加者。
文責:サイエンスライター・東京大学特任教授 保坂直紀