2011/07/22
報告:海洋アライアンス・日本財団共同シンポジウム
7月8日(金),日本財団ビル(東京都港区赤坂)において,海洋アライアンスと日本財団との共同シンポジウム「大震災からの復興への道筋」が開催された.当日はのべ人数にしておよそ320名が参加した.
本シンポジウムでは,これまでの震災に関する調査結果を踏まえた上で,被災地の復興への将来像を明確にし,我々が何をすべきなのかを確認することを目的として,以下の8件の報告・提案が行われた.
日本財団の笹川会長からの開会あいさつの後,第1部では震災の実態について,海洋アライアンスによる調査結果と,現地からの被災状況が報告された.まず,佐藤教授(工)は,今回の津波の特徴を解説した後,自らの調査と東北地方太平洋沖地震津波合同調査グループによる調査結果を紹介した.堤防などの海岸の防護施設は,一部破壊されながらも津波被害を低減する効果があったことを報告し,「計画対象規模」と「想定の内外」にかかわるハードとソフトの対策,低頻度災害について「減災」をベースとした課題などを挙げた.
浦教授(生研)は,大槌湾と志津川湾において,水中ロボットを用いた最新の水中ビデオ映像を紹介した.海に流れ込んだ大量の瓦礫が沿岸の漁場に堆積しているとの懸念が漁業者からあった.しかし,海底構造に依存するし,残った係留装置に絡まる漁業施設はあるものの,海底の瓦礫は定置網などと共に沖に流され,残存している量は少ないと報告した.ただし,カメラが入れる範囲は海域のほんのわずかであることも指摘した.
岩手県水産技術センターの後藤主査専門研究員は,同県の沿岸漁業の特徴として,魚種の変動に応答した多様な漁業が行われてきた現状を報告し,"持続的な"漁業の再生には,長年培われてきた漁業の多様性を取り戻すことが重要であると指摘した.
同様に被災した立場から,三陸とれたて市場の八木代表取締役が体験した被害状況を報告した.氏は,人工構造物は壊れたものの自然は壊れていないこと,海底に堆積した汚泥が沖に流され,疲弊した生産環境がリセットされたこと,生業とするインターネット産直に消費者から安否を気遣う連絡が生産者のやる気を引き出していることで,新たな水産業の形を模索している最中であることを紹介した.
続く第2部では,復興の筋道というテーマで4名の講演があった.磯部教授(新領域)は1000年に1度というような最大クラスの津波に対しては避難してまずは人命だけは救えるようにして,一生に1度遭遇する可能性のある中小規模の津波に対しては堤防・防波堤で生命と財産を守るというような津波の規模によって2段階の防災の考え方を紹介した.
次に,青山教授(工)は,造船業の再構築において,過去の産業構造と現時点で残った生産資源を客観的に把握し,産業間での認識を共有化した上で,集約すべきポイントを議論し,適切な集約を行うことで構造が最適化し新しいビジネスモデルにつなげることが肝要で,まずはステークホルダ間の円滑な合意形成と問題認識の共有化が鍵であるという提案した.
黒倉教授(農)は,水産都市は漁業で成立しているが,漁業が成立するには加工・流通といった都市構造がいるので,「水産の復興はまちづくりである」という視点をあげた.また,零細漁業の問題は限界集落の問題であり,水産業の多面的機能という意味では環境監視・国土保全など経済とは別の総合的沿岸管理の視点が復興の際に必要であるとした.
東日本大震災復興構想会議の委員でもある大西教授(工)は,被災した集落やまちの安全な地への移転計画について,まちの形態は即地的で環境に配慮したデザイン,低炭素都市の実現といった方向性が必要であることを強調した.
総合討論の時間には,藤井教授(生研)の司会により,会場から寄せられた質問の中から,課題毎に質問に答える形式で行われ,一つの質問を軸にパネリストによる活発な意見交換が,時間を超過して行われた.本シンポジウムでは,復興に向けたボトムアップ的には希望ある取組が紹介される一方で,復興の進み方や進むスピードが各セクターごとに異なり,着実に震災被害から復興するための課題も多いことがわかる機会でもあった.
講演要旨集のダウンロード:20110708_EQ_symp_abstract
第1部大震災の実態(座長:農学生命科学研究科・黒倉寿教授)
1.津波被害の全体像
佐藤愼司(工学系研究科)
2.海底の状況:大槌湾と志津川湾の海底はどうなっているか
浦 環(生産技術研究所)
3.東日本大震災が岩手県沿岸漁業におよぼした影響と持続的な漁業再開に必要なこと
後藤友明(岩手県水産技術センター)
4.新たな漁業の胎動:瓦礫の中からの復興宣言 -見失いかけていた進むべき道
八木健一郎(三陸とれたて市場)
第2部 復興への道筋(座長:工学系研究科・村山英晶准教授)
5.復興に求められる防災対策
磯部雅彦(新領域創成科学研究科)
6.地場産業:造船クラスターの復興計画で考えること
青山和浩(工学系研究科)
7.水産業の復興
黒倉 寿(農学生命科学研究科)
8.東北の復興計画
大西 隆(工学系研究科)
第3部 総合討論(座長:生産技術研究所・藤井輝夫教授)
パネリスト:講演者全員