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島嶼(とうしょ)における海洋保護区の設定と管理:地元関係者の意識と参画

カテゴリ 島嶼(とうしょ)における海洋保護区のあり方と意義
掲載日 2013.12.17
海洋政策研究財団 脇田和美

1.海洋保護区に関する沖縄県竹富町の動きと本事業の連携

 沖縄県竹富町は、西表島及び日本最南端の有人島である波照間島をはじめとした9つの有人島と周辺海域を生活圏とする島嶼(とうしょ)型海洋自治体で、周辺海域には世界有数のサンゴ礁も広がっている。豊かな海洋環境に育まれた大自然と文化を有する同町においては、海洋環境の適切な管理が持続可能な地域社会を形成していく上で必須である。このような背景から、竹富町は2011年3月に「竹富町海洋基本計画」を策定し、竹富町版海洋保護区に関する検討を開始している。これは、2010年10月に名古屋で開催された生物多様性条約第10回締約国会議において合意された「2020年までに少なくとも陸上の17%、沿岸と海洋の10%を、保護区や他の有効な保全手段によって保全する」という愛知目標に貢献する、わが国としても重要な地方公共団体が主体となった取り組みの一つである。

 では、具体的に海洋保護区(Marine Protected Area:MPA、以下MPAとする)をどのように設定・管理していけばよいのだろうか。MPAの設定や管理を成功させるためには、計画の初期段階から関係者を巻き込んだ話し合いを行うことが重要だといわれている。

 そこで、本事業では竹富町役場の全面的な協力を得て、竹富町版MPAの検討に向けた基礎的情報収集のため、地元関係者のMPAに関する意識を明らかにすることとした。

2.ワークショップおよびアンケートを通じたMPAに対する地元関係者の意識

 地元関係者を中心としたMPA設定に関する賛否と課題を明らかにするため、2011年11月12日、竹富町と東京大学海洋アライアンスの共同により、竹富町西表島大原・離島振興総合センターにてワークショップ「海の利用、保護、管理のあり方を考えるワークショップin竹富町-ダイビングもできて魚も獲れる海洋保護区って?」を開催した(図1~2参照)。竹富町民を主とした約60名がワークショップに参加し、熱心な議論が行われた。ワークショップでは、八重山圏域における国や自治体による海の利用や管理の取り組みについて、環境省那覇自然環境事務所、石垣港港湾事務所、石垣海上保安部、沖縄県水産業改良普及センター、竹富町自然環境課などから報告が行われた。さらに、内閣官房総合海洋政策本部事務局と、海の利用者である竹富町ダイビング組合、西表島カヌー組合、海運業の方々と、東海大学沖縄地域研究センター、WWFサンゴ礁保護研究センターおよび東京大学の専門家を加え、今後どのように海を利用・保全していきたいかが議論された。このワークショップの様子は複数の地元新聞社により大きく報道され、町および八重山地域全体の海洋環境に対する意識の高さがうかがわれた。

図1 竹富町・富本副町長による挨拶

図1 竹富町・富本副町長による挨拶

図2 ワークショップ開催状況

図2 ワークショップ開催状況

竹富町でMPAに関する取り組みを進めていく上で話し合いに参加して欲しい重要な人たち
(回答者1名あたり3つまで選択)

図3 竹富町でMPAに関する取り組みを進めていく上で話し合いに参加して欲しい重要な人たち (回答者1名あたり3つまで選択) [図を拡大]

 ワークショップ参加者に対してMPAに関するアンケート調査を実施したところ、回答者の80%が「MPAは竹富町の発展に寄与すると思う」と回答し、同課題に興味を有する人々の多くはMPAの設定に賛成だった。一方、MPAといっても具体的に何を、何のために、どのようにまもり、あるいは利用していくのかがわからないため、MPA設定に対する賛否を決めかねるという意見も少なからずあった。また、今後の話し合いの中心となるべき人々としては漁業者が最上位に選ばれ、MPA設定に向けた海域利用に関する利害関係は、漁業者なしでは調整できないことが明らかとなった(図3参照)。さらに、MPAの設定に向けた基礎資料として、まず現在の海域利用状況の把握が必要だという指摘もあった。

 ワークショップを通じ、同町では多様な関係者がMPAの設定に関心を有しており、具体的な設定に向けては、漁業者をはじめとした地元関係者の参画による話し合いを行っていく必要があることが把握できた。

3.インタビューを通じた漁業関係者の意識

 上述のワークショップおよびアンケートの結果をふまえ、MPAの設定にあたり参画が不可欠だと考えられる漁業者の意識と今後の課題を明らかにするため、竹富町役場と共同で漁業関係者インタビューを行った。その結果、竹富町の漁業者と彼らが所属する八重山漁業協同組合は海洋環境に対する意識が高く、自主的に水産資源管理にも取り組んでいることがわかった。例えば、同漁協では魚の体長制限や禁漁区域・期間を定めて漁業資源管理を行っているし、インタビューに応じてくださった竹富町漁業者の皆さんは、竹富町が目指している海洋資源や自然環境に配慮した取り組み全体について、総論としては概ね賛成だった。一方、MPAについては、具体的な漁業制限の有無や程度がどうなるのか、ダイビング業者や遊漁業者など漁業以外の海域利用関係者も巻き込みどのようなルールを決めていくのか、またその実行性をいかに確保するかについて意識啓発も含めた取り組みが必要であることが指摘され、さらにこれらが不明である現時点では賛否を表明し難いという意見だった。あわせて、実際に竹富町周辺海域にMPAを設定しようとする場合、八重山漁業協同組合全体の合意が必要なことも指摘された。

 漁業者インタビューを通じ、実効性のあるMPAの設定・管理を実現するためには、具体的にどの海域にMPAを設定するか、利用に関する規制の程度や有無はどうするかといった詳細な内容について、漁業関係者、ダイビング関係者、遊漁関係者といった多様な海域利用者との話し合いを重ねて詰めていく必要があることが確認できた。

4.MPAの設定に向けた今後の取り組みの推進に向けて

 MPAの設定推進に向けた素地ともいうべき、島嶼である竹富町における海洋環境の保全や持続可能な水産資源管理に関する意識は、漁業者も含めた竹富町住民全体で高いことが明らかとなった。一方、MPAそのものが、住民や関係者にとってわかりにくいものであることも確認できた。これは至極当然のことでもある。なぜなら、一口に「MPA」といっても、その目的や管理の態様は様々だからである1)。海域の広さ、対象とする資源、人間の立ち入りや生物資源の採捕などの活動制限の有無や程度は、多様である。こういった幅の広さが、MPAの設定に向けた最初の一歩である関係者の共通認識構築を難しくさせているのかもしれない。今後のMPAの設定に向けては、竹富町役場を中心として、地元関係者、関係する国や県、各種関係機関等を巻き込んだ長期的な取り組みが必要なことが、改めて浮き彫りになった。

 竹富町版MPAは、どのような態様を目指すのか。それは、海と深く関わりを持ちながら暮らしている竹富町の皆さんが、島嶼における自分たちの生活そのものを見つめなおし、その特徴を再認識した上で、どのような生活の将来像を描くのか、とも換言できよう。MPA設定に向けた竹富町役場のイニシアチブと関係者の皆さんの継続的な取り組みに期待して、筆を置きたい。

(注1)国際自然保護連合(IUCN)が設定した保護地域管理カテゴリーⅠからⅥを参照。
http://www.iucn.org/about/work/programmes/gpap_home/gpap_quality/gpap_pacategories/

Contents
研究者発の海の話
水産業の振興に向けた海の「砂漠化」対策
海溝というもの
漁村を活性化するのは「心」なのか「環境」なのか?
高性能な船を実験水槽で開発する方法をウェブでわかりやすく説明する
地球温暖化だけでサンゴ礁の国は水没しない
海中ロボットで海を身近に
河川の構造物はニホンウナギの行く手を阻んでいるか?
「赤潮」の頻発と養殖漁業 ~インドネシア・ランプン湾を例に~
大学における学際海洋教育を推進するための基礎データ
島嶼(とうしょ)における海洋保護区のあり方と意義
海洋生物の多様性保全と利用を考える
海を守る、地球を守る
我が国の離島の保全・管理や振興
海面上昇に対する沖ノ鳥島の維持
「海」から展開する情報プラットフォームとネットワーク
海洋深層水の利用
うみあるきとは?-システム開発の目的と方針
現代の海賊問題と日本
沿岸域利用についての合意形成メカニズムの評価検討
次世代海洋研究者の育成
陸と海のつながりと海洋生態系
大学における学際的海洋教育研究
漁業をまもる先端技術
海底に眠る鉱山—熱水鉱床
海洋に関わる諸活動のコスト・ベネフィット評価
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