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島嶼(とうしょ)での暮らしと海との密接な関わり-その関係が育む海洋環境保全意識-

カテゴリ 島嶼(とうしょ)における海洋保護区のあり方と意義
掲載日 2013.12.17
海洋政策研究財団 脇田和美

1.島嶼(とうしょ)特有の海との密接な関わり

 "島嶼(とうしょ)での暮らしは、海とは切っても切れない縁で結ばれている。"当然だが、この事実は竹富町役場と本研究チームとが共同で行った海に関するアンケート調査データによって、明らかに裏付けられた。

 沖縄県竹富町は、沖縄本島から南西に約450kmの八重山諸島の一部を構成する島嶼型海洋自治体である。同町は、イリオモテヤマネコで知られる西表島をはじめとし、世界有数のサンゴ礁を有する海域の中に点在する大小16の美しい島々(有人島9つと無人島7つ)から構成されている。

 さて、あなたが竹富町に住んでいると仮定してみよう。「あなたは今日、同じ町内ではありますが、別の島に行く用事があります。どのような交通手段で行きますか?」この質問を受けたあなたは、島の間を移動するためには海を渡らなければならないことに気付くだろう。・・・船は今日、出るだろうか?今日の天気は?風は?台風の進路は?・・・このように、海の様子と天候は、おそらく竹富町住民の誰もが、日々気にかけていることだと推察できる。

図1 竹富町住民が海に行く頻度(グラフ上)と目的(グラフ下)

図1 竹富町住民が海に行く頻度(グラフ上)と目的(グラフ下)
(冬:12-2月)(回答数:396通、配布数:2,159通、回収率:18%)(海に行く目的は複数選択可) [図を拡大]

 竹富町に住む人々は、年間を通して頻繁に海に行く。アンケートで「あなたは普段どれくらいよく海に行きますか?」と竹富町住民に質問したところ、最も海に行く頻度が低い冬でも、アンケート回答者396名のうち約20%はほぼ毎日海に行き、それ以外の約30%は週に1回以上海に行っていることがわかった(図1上参照)。さらに、冬に海に行く目的については、「移動手段として船に乗る」との回答が最も多かった(図1下参照)。これは、島嶼以外に住む人々の海に行く頻度とは全く異なる。筆者を含む東京大学の別の研究チームが同じ質問(海に行く頻度)を東京、静岡、長野、石川、大阪の5都府県の住民に行ったアンケート結果では、最も海に行く頻度が高い夏でさえ、週に1回以上海に行く人は、回答者1,100名のうちわずか約5%だった1)


2.島嶼の暮らしが育む海に対する価値観

図2 竹富町の人々が持つ海の価値意識と海洋環境保全意図の関係

図2 竹富町の人々が持つ海の価値意識と海洋環境保全意図の関係
(矢印の太さは与える影響の大きさを表す)[図を拡大]

 竹富町の人々は、以上のように海と密接な関わりを持ちながら生活している。竹富町役場と共同で、同町民の海に対する意識をたずねるアンケートを実施し、共分散構造分析を行った。その結果、島嶼ならではの生活スタイルが海に対する特有の価値観を育み、さらに、その価値観が生活に密接な関わりを持つ海洋環境をまもりたい、という海洋環境保全意識の向上につながっていることが明らかとなった(図2参照)2)。竹富町の人々は、魚やもずくなどの食料を得る海、サンゴや美しい貝などの装飾品が得られる海、神事・伝統行事に使う海、海水浴などレクリエーションで利用する海、健康増進に役立つ海、地域固有の文化を育む海、美しい景観を楽しめる海、といった海からの恩恵を、生活に密接な価値として一体として認識している。このような認識は、島嶼ではない5都府県住民に対するアンケート結果(前述)からは導き出されなかった3)。また、砂浜やサンゴ礁による減災機能、干潟による水質浄化機能、海による二酸化炭素吸収機能など、私たちの生活をまもってくれる海の価値を高く認識しており、この価値観が海洋環境保全意識にも寄与している結果となった。

3.島嶼の人々の海に対する価値観が海洋環境・資源の持続可能な保全・利用の原点に

 海とは切っても切れない縁で結ばれた竹富町の人々の暮らし。その島嶼特有の生活スタイルが育む海の価値観と海洋環境保全意識は注目に値する。竹富町では、2011年3月に「竹富町海洋基本計画」を策定し、竹富町版海洋保護区の設定を目指した、海洋環境資源の持続可能な利用と保全に関する取り組みを開始している。海との日常的な関わりなしには生きられない島嶼での生活。だからこそ認識される海の大切さ。四方を海に囲まれて暮らしている自分が、普段は全く海を意識せずに暮らしていることに改めて気付かされた。島嶼に暮らす竹富町の人々が有する海の価値観が、同町の先進的な海洋保護区の設定に向けた取り組みの素地となっているのではないだろうか。

(注1,2,3)アンケート結果については別途、学術誌へ投稿予定。

Contents
研究者発の海の話
水産業の振興に向けた海の「砂漠化」対策
海溝というもの
漁村を活性化するのは「心」なのか「環境」なのか?
高性能な船を実験水槽で開発する方法をウェブでわかりやすく説明する
地球温暖化だけでサンゴ礁の国は水没しない
海中ロボットで海を身近に
河川の構造物はニホンウナギの行く手を阻んでいるか?
「赤潮」の頻発と養殖漁業 ~インドネシア・ランプン湾を例に~
大学における学際海洋教育を推進するための基礎データ
島嶼(とうしょ)における海洋保護区のあり方と意義
海洋生物の多様性保全と利用を考える
海を守る、地球を守る
我が国の離島の保全・管理や振興
海面上昇に対する沖ノ鳥島の維持
「海」から展開する情報プラットフォームとネットワーク
海洋深層水の利用
うみあるきとは?-システム開発の目的と方針
現代の海賊問題と日本
沿岸域利用についての合意形成メカニズムの評価検討
次世代海洋研究者の育成
陸と海のつながりと海洋生態系
大学における学際的海洋教育研究
漁業をまもる先端技術
海底に眠る鉱山—熱水鉱床
海洋に関わる諸活動のコスト・ベネフィット評価
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