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持続可能な社会構築に向けた「海洋深層水」利用実験サイト

カテゴリ 海洋深層水の利用
掲載日 2010.11.10
工学系研究科 大内一之
図1 伊豆大島

図1 伊豆大島 [図を拡大]

図2 海洋深層水の生成過程 (出典:中島敏光)

図2 海洋深層水の生成過程 (出典:中島敏光) [図を拡大]

 東京大学は2009年に東亜建設工業(株)よりの貴重な寄付により、伊豆大島北東部の泉津漁港(図1)に敷設された海洋深層水取水施設を取得し、大学としては世界で初めてとなる海洋深層水利用の多角的実験を行うためのフィールドサイトとして運用を開始した。2010年3月6日には第1回シンポジウムを現地にて開催し、今後の研究計画などの発表・討論を行った。施設の規模としては、水深512mの深層水を最大で500m3/日の容量で連続的に取水する能力を持つ。他の施設に比べて小ぶりではあるが、地元の大島町との連携をとりつつ将来の低炭素持続可能な社会へ向けての海洋深層水の有意義な利用技術開発を行い、深層水の恵みを享受することにより、人類の将来を担保するための一助となれば幸いである。

 海洋深層水は一般的に次のように定義されている(海洋深層水利用学会)。
・光合成による有機物生産よりも微生物による有機物分解が大きく、
・かつ、海水の上下混合や人間活動の影響が少なく、
・補償深度より深いところの資源性の高い海水で、
・一般には水深200m以深の海洋水がこれに相当する。
(補償深度:植物の光合成量と呼吸量が等しくなる光の強さの深さ)

 そしてその特性は以下のようにまとめられる。(図2) 1. 低温性:水温が表層水より大幅に低い。
2. 富栄養性:植物に必須な無機栄養素(栄養塩型元素)がバランス良く豊富に存在する。
3. 清浄性:汚染物・微生物や病原菌・分解性有機物質・濁りなどが少なく清浄である。
4. 水質安定性:これらの水質の変化が少なく、物理・化学・生物学的に安定している。
5. 再生可能資源:極地・寒帯より常に再生供給されている。

 わが国は深層水利用の一般化という意味では世界でも先頭を切っており、特に健康飲料水、化粧水、食品利用、医用、温浴施設など主として清浄性を利用した分野で産業展開されつつあるが、これらは未だ基幹産業と言える段階まで至っておらず、現在では一時のブームは去り、これまで急成長していた需要も最近では頭打ちとなっている。

 しかしながら、深層水の本来の有望性は再生可能でほぼ無尽蔵に得られる低温冷熱エネルギー、及び窒素・リン等の無機栄養塩をバランス良く含んだ肥料というところにある。例えば、冷熱エネルギーにより火力発電所の冷却・凝縮熱交換器、海洋温度差発電、海水淡水化、地域冷房、また、栄養塩肥料による光合成・バイオマス増大により、漁場造成、藻場造成、バイオ燃料油生産など、今後人類が直面するであろうエネルギー問題、食糧問題、水問題の解決を持続可能な形で可能とする資源であると言える。

 四面を深い海に囲まれたわが国は、世界でも屈指の海洋深層水の取水場所に恵まれた海洋深層水資源大国であり、今後世界に先駆けて深層水の恵みを享受するための技術開発、事業開発を盛んにしてエネルギー、食糧、水の持続可能な生産・供給を目指し、世界の範となることが期待される。

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