研究者発の海の話研究者発の海の話

伊豆大島の海

カテゴリ 我が国の離島の保全・管理や振興
掲載日 2011.12.26
生物生産工学研究センター 倉橋みどり

1.都会人の癒しの場としての伊豆大島

 東京には、ミシュランに気づかれたくない七つの島がある。島ごとに陸地と海の豊な個性を持ち、自然いっぱいのまさに大都会の憩いの場所である。大島の、噴火によってできた裏砂漠と海とがおりなすコントラストは絶景である。東京竹芝から、ジェット船でわずか1時間45分。これほど価値のある島々が、これまであまり活用されずにきていることは、むしろ不思議と言わざるを得ない。ニューヨークだったら、パリだったら、どのようにプロデュースされているだろうか?都会周辺の海や河川をもっと上手に活用できれば、大きな恩恵にあずかることはまちがいない。
 大島に、世界初の「癒しのダイビング」環境をつくったらどうだろうか?一つの島を、再生可能エネルギーの実証実験の場とし、同時に観光資源にしたらどうだろうか?などと次から次へと夢を描いてみたりする。

2.東京大学海洋深層水取水施設

 夢の一つでも実践できないものかと、大島にできた海洋深層水の会社に、ボトルドウォーターや塩以外の利用法で、海洋深層水を活用する件を提案させていただいた。紆余曲折、親会社の東亜建設工業株式会社より、東京大学に取水施設をご寄付いただくことになった。大島の場合、日本海溝を流れてくる深層水が、分岐した相模トラフに入り込み、水深2,000m以上もある急峻な伊豆諸島に突き当たり、その一部が大島泉津沖に湧き上がってきている。海洋深層水は、通常、深海からポンプでくみ上げるのであるが、湧昇する深層水を捕まえている伊豆大島の場合は、サイフォン式に取水できるので、汲み上げエネルギーが不要という好条件である。

3.持続可能型養殖システムと微細藻類培養

 筆者は今、海洋深層水の活用法の一つとして、養殖産業と微細藻類培養に注目している。日本以外の多くの国において養殖産業は成長産業であり、その成長率はIT産業をも上回る勢いである。水産資源の枯渇が叫ばれていることを考えれば当然のことであろう。一方、欧米諸国では、有機栽培、オルタナティブ医療、自然エネルギーなど、「持続可能」という言葉に代表されるパラダイムの変革が進行中であり、養殖産業も例外ではない。これらの背景から「青の革命」の一環として案出された養殖システムは、集約的であり、過密養殖や過剰給餌によって引き起こされる魚場環境の悪化を防ぎ、水とエネルギー資源を節約した持続可能型という特長を持っている。また、養殖魚介類には、魚病対策としての抗生物質の大量投与や過密養殖による魚のストレス軽減の薬剤投入などのイメージがあり、天然物に劣るものと評価されることが少なくないが、このシステムでは、一切の薬物投与がされていない。このようなシステムで、エビの屋内養殖を新潟県妙高の地ですでに実践している会社があり、大島の海洋深層水を用いることの提案を行った。今年、その第一回目の実験が大島で行われたが、いくつかの解決できる問題点はみつかったものの、結果は概ね良好であり、アミノ酸が豊富で甘く身の引き締まった美味しいエビが収穫された。島の産業として根をおろすことを願っている。

 さらに、持続可能型養殖システムの導入にとどまらず、「微細藻類培養から始める養殖、栽培漁業」を目指すべきである。この視点を組み込むことで、本来の持続可能型養殖システムが完成することになる。良い牛を育てるためにまずは良い牧草を育てるのと全く同じ発想である。そして、バイオマスエネルギーとしても期待されている微細藻類は、海洋深層水を用いて培養すると非常に増殖速度が速くなる。深層水には、微細藻類培養に不可欠なミネラル分が豊富に含まれているためである。このことは、全地球の海表面のわずか1%程度しかない海洋深層水湧昇域で、魚類生産の80%が行われていることからもうなずける。海洋深層水を利用する微細藻類燃料油生産は、筆者の取り組んでいる課題でもあり、今後大島で実証実験などを行うことになるだろう。

4.低密度資源の利用は、多段利用が鍵

海洋、癒しの提供と産業活用

海洋、癒しの提供と産業活用
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 今後、私たち地球人は、持続可能社会を実現するために、さまざまな取り組みをしていくことになる。そのなかで、低密度資源を利用するには、「多段利用」が一つのキーワードになってくる。例えば、上述した微細藻類から燃料油を取り出した残渣を利用して、微生物農薬の発酵生産や薬用キノコの栽培を行う。大島では、自然との共生というイメージと合致させ、交通上の不利な条件を克服するために、これら高付加価値品の生産を行うのがよいだろう。そして、発酵生産工場の空調冷却に海洋深層水の冷熱エネルギーを利用する。そして冷熱を利用した後の深層水を、微細藻類培養や養殖システムに再利用するのである。すなわち、海洋深層水と微細藻類の両方を多段利用することになる。日本は資源小国と言われるが、持っているものを再度見直し、資源としての価値を最大限引き出す努力を惜しんではならない。

Contents
研究者発の海の話
水産業の振興に向けた海の「砂漠化」対策
海溝というもの
漁村を活性化するのは「心」なのか「環境」なのか?
高性能な船を実験水槽で開発する方法をウェブでわかりやすく説明する
地球温暖化だけでサンゴ礁の国は水没しない
海中ロボットで海を身近に
河川の構造物はニホンウナギの行く手を阻んでいるか?
「赤潮」の頻発と養殖漁業 ~インドネシア・ランプン湾を例に~
大学における学際海洋教育を推進するための基礎データ
島嶼(とうしょ)における海洋保護区のあり方と意義
海洋生物の多様性保全と利用を考える
海を守る、地球を守る
我が国の離島の保全・管理や振興
海面上昇に対する沖ノ鳥島の維持
「海」から展開する情報プラットフォームとネットワーク
海洋深層水の利用
うみあるきとは?-システム開発の目的と方針
現代の海賊問題と日本
沿岸域利用についての合意形成メカニズムの評価検討
次世代海洋研究者の育成
陸と海のつながりと海洋生態系
大学における学際的海洋教育研究
漁業をまもる先端技術
海底に眠る鉱山—熱水鉱床
海洋に関わる諸活動のコスト・ベネフィット評価
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