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大学院学生によるCBD-COP10での発表

カテゴリ 海洋生物の多様性保全と利用を考える
掲載日 2012.07.23
農学生命科学研究科 佐野光彦

 海は地球の表面積の約70%を占めている。この広大な海には、少なくとも約23万種の生物が棲んでいると言われている。地球上には既知種で190万種程度が知られているので、海には地球上の生物の10%以上が棲んでいるということになる。これらの海洋生物の中には、私たちの食料として重要な生物が数多く存在しており、海洋生物はその多様性を保全しながら、持続的に利用していかなければならない天然資源のひとつとなっている。

COP10のロゴ

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 しかし、近年、地球上の多くの生物は環境破壊や乱獲、侵略的外来種などによって脅威にさらされている。たとえば、1975年以降は1年間に約4万種の生物が絶滅したと言われている。したがって、生物多様性の保全と持続可能な利用は人類の喫緊の課題のひとつであり、大きな社会問題となりつつある。しかし、海洋における生物多様性の現状や危機の深刻さについては、水の中の出来事で目にする機会が少ないということもあり、陸域と比べてあまり注目されていないのが現状である。そこで、この課題について認識を深め、検討するために本学の理系・文系大学院学生を対象にした合宿形式のフォーラムと調査を実施した。このフォーラムと調査で得られた成果は、2010年10月に名古屋で開催された生物多様性条約第10回締約国会議(CBD-COP10)の展示ブースで、学生がポスター発表をした。その題目と概要を以下に簡単に紹介する。

1.日本における禁漁区の実態-管理をしている人々の本音からみえるもの-

 千葉県や伊豆大島の漁業協同組合において禁漁区の自主管理を行っている人々にインタビュー調査を行い、禁漁区の実情を明らかにするとともに、禁漁区と生物多様性保全の関係について考察した。近年、禁漁区には生物多様性保全の効果があると言われ、注目されている。しかし、禁漁区はもともと漁業管理方策のひとつとして導入されたため、漁業対象種以外の生物に与える影響はまだわかっていないのが実情のようである。今後、漁業者や研究者、政府関係者などが一体となって禁漁区の管理方策などについて検討すれば、禁漁区は生物多様性保全に有効に働くものと考えられた。

2.生物多様性レシピ-未来につながる今日のごはん-

 現在、過剰に漁獲・消費されている水産生物と、そうでない低利用の水産生物の両方が存在している。このため、そのような消費のアンバランスを解消し、後者の利用を促進するための簡便な方法としてエコスコアー(ES)を提案した。

ES=100-〔ある水産物資源の年間消費量(kg)/その水産物の資源量(kg)〕×100

 これによって、エコスコアーが100に近いほど、その種はもっと利用しても大丈夫な資源であり、逆に0に近いほど過剰漁獲されている高利用資源であることがわかる。例えば、前者はサンマであり、エコスコアーは95となった。一方、後者はマグロ類でエコスコアーは0であった。このように点数化されたエコスコアーを利用することで、水産物の適正な消費バランスがとれ、水産生物の多様性保全と持続的な利用を促進させることができるものと思われる。また、エコスコアーを用いて魚介類を選んだ場合、どのようにしてそれらをおいしく食べたらよいのか、そのレシピについても簡単に紹介した。

3.里海-21世紀の海と人-

 地域住民参加型あるいは主体型の里海づくりの事例(沖縄県白保、大分県中津、千葉県盤洲)を紹介するとともに、様々な立場の人々が共有できるような里海像について考察した。その結果、私たちが目指すべき里海の姿としては「人々が守りたいと思うような海」がよいのではないかと考えた。これは、海に対する人々の関心が高く、生物多様性や食料生産の高さ、また憩いの場としての海のかけがえのなさが社会に浸透していて、人々の生活が海と密接につながっている状態をさす。このような里海を実現するには、地域団体による住民主体型の環境保全活動や啓発活動が重要であり、さらには行政の活動支援、大学などの研究機関による科学的データの提示、マスメディアによる情報発信など、多方面からの取組みも必要であることがわかった。

展示ブースでの研究成果報告

展示ブースでの研究成果報告

 CBD-COP10の発表期間中には、国内外の研究者や一般市民など、多くの方が展示ブースを訪れ、ポスターをみながら学生との間で活発な議論が行われた。なかには30分以上も議論していた場面もあった。学生は多くの人と意見交換をすることによって、自分たちの考えや提案に対し、多様な意見があることを学ぶことができたようである。このような体験は大学の講義や実習ではなかなか得ることはできないため、たいへん貴重なものとなった。自分と違った意見にも耳を傾け、それを尊重し理解するということは、学生の今後の研究活動や自己啓発はもちろん、社会にでてからもさまざまな面で役立つものと思われる。

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