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「国富」としての海底鉱物資源と法

カテゴリ 海底に眠る鉱山—熱水鉱床
掲載日 2009.07.20
法学政治学研究科 中谷和弘

1.海底鉱物資源の輸入国から産出国へ:「国富」としての海底鉱物資源

 「わが国には、鉱物資源はほとんどなく、需要の大半を輸入に頼らざるを得ない」という「常識」を覆すかもしれない事態が、最近2つ生じつつある。1つは、廃棄された携帯電話等に含まれているレアメタルを回収して再利用する可能性であり、このいわゆる「都市鉱山」は今後の資源問題を考える上で重要である。もう1つは、石油、天然ガスのみならず、コバルトリッチクラスト、メタンハイドレード、海底熱水鉱床といった日本近海にある海底鉱物資源である。特に海底熱水鉱床については、日本周辺(沖縄、伊豆小笠原海域)には世界でも有数のものがあるとされ、国際的にも注目されている。
 海洋基本法(2007年7月施行)に基づき、2008年3月には海洋基本計画が閣議決定され、さらに2009年3月には、第5回総合海洋政策本部会合において、「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画」が了承され、メタンハイドレート及び海底熱水鉱床については、今後10年程度を目処に商業化を実現するとしている。
 それでは、この海底鉱物資源開発を規律する国際法及び日本法は万全なのであろうか。結論を先取りすれば、国際法については、不明確な部分もあれば、作成中のものもあり、日本としては、積極的にルール作りに関与することが求められる、日本法については、海底鉱物資源が日本国及び日本国民の「国富」であるとの認識が希薄であるため、この際、見直す必要がある。

2.海底鉱物資源開発を規律する国際法ルール

 海底鉱物資源を規律する国際法ルールは複雑であり、ここでは詳論できないが(中谷「海底鉱物資源の探査・開発と国際法」ジュリスト1365号(2008年)65-73頁参照)、以下の点のみ指摘しておきたい。[1]大陸棚における海底鉱物資源の開発には、沿岸国の主権的権利が及びその明示の同意が必要となる。[2]隣国との大陸棚の画定は、外交上の難題であり、現実には境界未画定の状況で一方的資源開発がなされることもある。[3]200カイリを超える大陸棚の開発においては、資源の一定割合を国際社会(国際海底機構)に拠出することが求められる。[4]「人類の共同遺産」とされる深海底における鉱物資源開発については、国際海底機構のイニシアティブが強く働き、資源の一定割合を同機構に拠出することが求められ、また資源の陸上生産国(途上国)への補償も求められることになる。
 先進国及び先進国企業による資源開発(商業化)と国際社会(特に途上国)への利益の還元をどうバランスさせるかは、国際法ルールをどのように作成し、また解釈・適用するかにかかっており、この意味からも国際法ルールは海底鉱物開発の行方を制することになる。
 海底熱水鉱床については、国際海底機構において鉱業規則が審議中であり、日本としても積極的に関与していくことが重要である。また、多数国間環境条約(特にロンドン海洋投棄条約及び生物多様性条約)が新たな規制を設けることにより、海底熱水鉱床の開発にも大きな影響が今後生じうることを認識しておく必要がある。

3.日本法の対応は十分か

 日本近海の海底熱水鉱床に関しては、既に英国企業の日本子会社が、鉱業法に基づき採鉱権申請を行っている。鉱業法では、「日本国民又は日本国法人でなければ、鉱業権者になることができない」と規定して外資規制の規定をおくが、外国企業の子会社である日本法人が鉱業権者になることは可能であり、また、先願主義(所定の要件を満たせば早い者勝ち)を採用している。
 海底鉱物資源は国家及び国民の「国富」であることに鑑みると、一企業に「国富」を事実上無償で独占させることを許容してしまう鉱業法の考え方は、合理的とは言い難い。石油や天然ガスに関しては、産出国に進出して資源開発を実施する日本企業は、現地政府又は現地の国営企業に対してロイヤリティーを支払うことが不可欠である(詳細は、鉱物資源開発契約において規定される)。我が国としても、内外企業が日本の大陸棚での海底鉱物資源開発に従事する際には、政府がイニシアティブをとってこれを規律していくことが重要である。そのためには、早急に鉱業法を改正するとともに、モデル鉱物資源開発契約を作成することが求められよう。

4.海洋アライアンス:21世紀版サグレス航海学校を目指して

航海学校の絵画

サグレス航海学校(ポルトガル)の絵画(著者撮影)

 この航海学校の絵画は、大航海時代の幕開けを象徴するものである。ポルトガルのエンリケ航海王子は、15世紀はじめに同国南西端のサグレスに航海学校を創設したとされ(実在したかどうかは不明)、ここで航海術を学んだであろう者が協力して、ポルトガル船は大西洋に進出し西アフリカにまで達した(1441年のボシャール岬到達を端緒とする)。
 海洋アライアンスが、21世紀版のサグレス航海学校となって、海洋分野において革命的な国際貢献をすることを願ってやまない。

Contents
研究者発の海の話
水産業の振興に向けた海の「砂漠化」対策
海溝というもの
漁村を活性化するのは「心」なのか「環境」なのか?
高性能な船を実験水槽で開発する方法をウェブでわかりやすく説明する
地球温暖化だけでサンゴ礁の国は水没しない
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「赤潮」の頻発と養殖漁業 ~インドネシア・ランプン湾を例に~
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島嶼(とうしょ)における海洋保護区のあり方と意義
海洋生物の多様性保全と利用を考える
海を守る、地球を守る
我が国の離島の保全・管理や振興
海面上昇に対する沖ノ鳥島の維持
「海」から展開する情報プラットフォームとネットワーク
海洋深層水の利用
うみあるきとは?-システム開発の目的と方針
現代の海賊問題と日本
沿岸域利用についての合意形成メカニズムの評価検討
次世代海洋研究者の育成
陸と海のつながりと海洋生態系
大学における学際的海洋教育研究
漁業をまもる先端技術
海底に眠る鉱山—熱水鉱床
海洋に関わる諸活動のコスト・ベネフィット評価
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