研究者発の海の話研究者発の海の話

海底熱水噴出孔のアーキアに注目する

カテゴリ 海底に眠る鉱山—熱水鉱床
掲載日 2009.07.20
理学系研究科地球惑星科学専攻 砂村倫成

 アーキアとは、30年ほど前に米国の微生物学者Carl Woeseにより提唱された生物の系統群である。全ての生物がもっているリボソームRNAの遺伝子配列に基づいて生物を分類すると、地球上の全ての生命体は、真核生物(ユーカリア:動植物などが含まれる)、細菌(バクテリア:大腸菌、乳酸菌、ピロリ菌などが含まれる)、古細菌(アーキア)の3種類に明確に分けられる。アーキアはそのうちの一つで、バクテリアやユーカリアとは30-40億年前に分岐したと考えられている。また、アーキアは酸素が少しでもあると生きられない微生物、超好熱の温泉でしか生きられない微生物、イオウや水素などの無機物からエネルギーを得て生きている微生物を多く含んでいる。これらの環境が初期地球の環境を連想させるために、アーキアの提唱当初は始原細菌(Archaeabacteria)と呼ばれていた。

南マリアナ熱水活動域で得られた試料中の微生物細胞の蛍光顕微鏡写真

南マリアナ熱水活動域で得られた試料中の微生物細胞の蛍光顕微鏡写真
微生物細胞は特定の遺伝子配列を認識する蛍光染色法で染色した。
緑色がアーキア細胞で赤色がバクテリア細胞を示す。写真の横幅は約100μm。

 生命の誕生には諸説あるが、現在でも海底熱水噴出域が初期生命の誕生や進化の場と考え、地球の初期生命研究の場として注目している研究者は多い。 日本の国土には、多くの火山や温泉が陸上に存在しているが、深海底にも沖縄トラフ、伊豆小笠原弧に多くの海底熱水系が発見されている。深海では、圧力が高いので、水は100℃になっても沸騰せず、深海熱水噴出孔では300℃を超える高温の熱水がしばしば噴出している。これまでに、300℃を超える温度で成育できる微生物は知られていないが、海底熱水系からは、122℃で増殖可能なアーキアに属する微生物が培養されており、これが現在知られている微生物の最高成育温度である。このような微生物をはじめとして、海底熱水系からは様々なアーキアが検出されており、地球初期生命の探求や生物遺伝子資源開発といった観点から、主に好熱性古細菌を対象とした研究が精力的に行われている。

 さて、現在アーキアは2門9綱14目23科に分類されているが、実は環境中には私たちがまだ分類できていない(つまり培養できていない)アーキアが沢山存在している。これらのアーキアは、1990年代に環境中遺伝子の直接解析から発見され、次々に門、綱、目レベルで新規なアーキア遺伝子が発見され、アーキアはこれまで考えられていたよりはるかに多様であることが明らかになった。また、深海や地下圏では、ほとんど(深海では半分程度、地下圏ではほとんど全て)の微生物がアーキアで占められているとの報告もあり、その存在量も極めて多いと推定されている。

 特に熱水噴出域周辺では、未分類のアーキアが多種類検出されている。その中には、高温環境からしか検出されない未分類アーキアや深海に広く分布する未分類アーキアも含まれる。これらのアーキアは、その分布様式からそれぞれ高温や深海適応したグループであることが推測されている。近年ではさらに、環境ゲノム解析などからこれらの未分類アーキアの一部について、代謝特性や増殖温度などの特徴が推定されはじめている。しかしながら、代謝機能に関わる遺伝子を持っているということが、必ずしも環境中でその代謝を行っていることにはつながらない。代謝機能が推定できる微生物であっても、環境中での役割が分からないのであるから、未培養アーキアの環境中での役割や微生物システム解明への道のりは、まだまだ長いといえよう。現在の熱水環境微生物システムは、時間をかけて進化してきたものであり、もちろん初期生命が生きながらえているわけではないであろうが、これらのアーキアを含む熱水微生物生態系システムの解明は、初期生命に関する何らかの情報を与えてくれるものと期待される。

Contents
研究者発の海の話
水産業の振興に向けた海の「砂漠化」対策
海溝というもの
漁村を活性化するのは「心」なのか「環境」なのか?
高性能な船を実験水槽で開発する方法をウェブでわかりやすく説明する
地球温暖化だけでサンゴ礁の国は水没しない
海中ロボットで海を身近に
河川の構造物はニホンウナギの行く手を阻んでいるか?
「赤潮」の頻発と養殖漁業 ~インドネシア・ランプン湾を例に~
大学における学際海洋教育を推進するための基礎データ
島嶼(とうしょ)における海洋保護区のあり方と意義
海洋生物の多様性保全と利用を考える
海を守る、地球を守る
我が国の離島の保全・管理や振興
海面上昇に対する沖ノ鳥島の維持
「海」から展開する情報プラットフォームとネットワーク
海洋深層水の利用
うみあるきとは?-システム開発の目的と方針
現代の海賊問題と日本
沿岸域利用についての合意形成メカニズムの評価検討
次世代海洋研究者の育成
陸と海のつながりと海洋生態系
大学における学際的海洋教育研究
漁業をまもる先端技術
海底に眠る鉱山—熱水鉱床
海洋に関わる諸活動のコスト・ベネフィット評価
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