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海底熱水鉱床の特徴とその開発

カテゴリ 海底に眠る鉱山—熱水鉱床
掲載日 2009.07.20
理学系研究科地球惑星科学専攻 浦辺徹郎

1. 将来の資源としての深海底鉱床

 新興国の急速な工業化の進展と経済発展により鉱物資源の需要は増加の一途をたどり、その持続的な供給に対する危機感の高まりと、資源ナショナリズムの再興が相まって資源の供給構造は大きな変革期を迎えている(日本学術会議提言、2008)。我が国は陸域の鉱物資源に乏しく、その需要のほぼ100%を海外からの輸入に頼っている。銅については世界の生産量の7.8%の輸入にとどまっているが、ハイテクに用いられるレアメタルであるインジウムなど、生産量の60%が我が国で消費されているものがあり、我が国独自の対策が必要となっている。
 一方、我が国は陸域の11倍の領海や排他的経済水域(EEZ)を有しており、さらに政府は2008年11月、国連大陸棚限界委員会に新たに陸域の2倍にあたる大陸棚の延伸を認めるよう申請を提出した。過度の期待は慎まなければならないが、その広大な海域にどのような地下資源が含まれているのかについて、長期的視野の下で調査することが必要であることは言を俟たない。

2. 海底熱水鉱床とコバルトリッチ・マンガンクラスト

 我が国のEEZ 内に現在知られている鉱物資源として、海底熱水鉱床(図1)とコバルトリッチ・マンガンクラスト(図2)の2種類がある。後者は主として公海である深海底に見られるマンガン団塊と同様の成因と化学組成を持つものであるが、海山や海台などの露岩地帯を被覆するように産出するものである。海水中に溶けていたマンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、白金、希土類元素、リンなどが、非常にゆっくり(百万年に2-7mm)沈殿してできたと考えられている。分布は我が国のEEZ の東端と西端に分かれており、東側は小笠原父島の東方1000km にある南鳥島周辺の海山に、西側は沖大東島周辺の海山等に知られている。
 海底熱水鉱床はそれと対照的に、海底面に噴出する高温(250-300℃)の熱水より急速に沈殿するもので、銅、亜鉛、鉛、金、銀、バリウム、イオウ、セレン、ヒ素、アンチモン、ガリウム、インジウムなどを含んでいる。我が国周辺の海底熱水鉱床はすべて海底火山の直上に見られ、マグマから供給された成分が主体となっている。マグマは上記の金属のみならず、硫化水素、メタン、水素などの還元性ガスを放出することから、熱水域にはそれらの酸化還元反応をエネルギー源として増殖する化学合成微生物(光合成に対置される言葉。光の代わりに化学物質を用いて一次生産を行う)の群集が見られる。さらに、そこにはこれらの独立栄養微生物(無機物から有機物を合成できる微生物。光合成を行う植物や植物プランクトンに対置される)に依存した大型生物群集が伴われ、独特な生態系を形成していることが多い。熱水鉱床と熱水生態系とは切り離せない関係にあることから、熱水鉱床の開発は熱水生態系の保護と表裏一体の関係にある(福島記事参照)。

図1 熱水鉱床(マウンド)の断面。沖縄伊是名海穴より得られたもの。

図1 熱水鉱床(マウンド)の断面。沖縄伊是名海穴より得られたもの。

図2 南鳥島周辺海山のマンガンクラストの断面。カラースケールの長さ10cm。

図2 南鳥島周辺海山のマンガンクラストの断面。カラースケールの長さ10cm。

3. 海洋エネルギー・鉱物資源開発計画と海洋アライアンスの取り組み

 我が国の広いEEZ 内にはさまざまな地質条件が見られ、世界で最も古い海底(1.6億年)と、世界の海底島弧火山の約2割が存在する。前者はコバルトリッチ・マンガンクラストの生成にとって最も有利な条件だし、後者は大型の熱水鉱床の生成に好適な条件となる。そのことから、我が国の深海底資源のポテンシャルが世界的に見ても最も高いことは納得できる。しかし、その分布や鉱量はようやく調査の端緒に就いたばかりで、今後とも地道な調査が必要となる。そのためには政府が長期計画を立て、指針を示す必要があるが、経済産業省が「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画」を2009年3月に発表すべく準備を進めている。ここでは、海底熱水鉱床の開発を未踏の分野と位置づけ、中長期的な観点での取り組みが必要として10年計画が示されている。
 今後はこの計画に従って、資源量評価、環境影響調査、資源開発技術、および製錬技術などの項目に分けて、開発計画が進められることになる。ただ、それぞれの項目について、具体的な道筋ができている訳ではなく、法的な整備もこれからである。また、これらを進める上で国際的な枠組みの中での検討や、海に関わるさまざまな分野の間での議論が不可欠である。海洋アライアンスでは海底熱水鉱床開発に関する研究会を継続して、これらの問題の解決に寄与していく予定である。

Contents
研究者発の海の話
水産業の振興に向けた海の「砂漠化」対策
海溝というもの
漁村を活性化するのは「心」なのか「環境」なのか?
高性能な船を実験水槽で開発する方法をウェブでわかりやすく説明する
地球温暖化だけでサンゴ礁の国は水没しない
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河川の構造物はニホンウナギの行く手を阻んでいるか?
「赤潮」の頻発と養殖漁業 ~インドネシア・ランプン湾を例に~
大学における学際海洋教育を推進するための基礎データ
島嶼(とうしょ)における海洋保護区のあり方と意義
海洋生物の多様性保全と利用を考える
海を守る、地球を守る
我が国の離島の保全・管理や振興
海面上昇に対する沖ノ鳥島の維持
「海」から展開する情報プラットフォームとネットワーク
海洋深層水の利用
うみあるきとは?-システム開発の目的と方針
現代の海賊問題と日本
沿岸域利用についての合意形成メカニズムの評価検討
次世代海洋研究者の育成
陸と海のつながりと海洋生態系
大学における学際的海洋教育研究
漁業をまもる先端技術
海底に眠る鉱山—熱水鉱床
海洋に関わる諸活動のコスト・ベネフィット評価
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