研究者発の海の話研究者発の海の話

学際的な海洋教育とはなにか(その2.「学際研究」の進め方)

カテゴリ 大学における学際的海洋教育研究
掲載日 2010.04.19
大気海洋研究所 野村英明 ・ 農学生命科学研究科 古谷研

1. 様々な学際

 本稿では、学際はinterdisciplinaryの訳としているが、発展段階によって、multidisciplinary → interdisciplinary → crossdisciplinary → transdisciplinaryと、分野間の緊密度に応じて区分する考え方がある(シェリフとシェリフ、1971)。これらの語について、トムソン・ロイター社の文献検索サイト(the ISI Web of Knowledge)を用いて、該当論文数ともっとも古い論文の発表年を調べた(2009年11月13日現在)(表1)。この表から、crossdisciplinaryやtransdisciplinaryは、multidisciplinaryやinterdisciplinaryと比べると、該当論文数も少なく発表年も若い。さらに、近年ではinterdisciplinaryよりもmultidisciplinaryの方が該当論文数が多いといえる。

 赤司(1997)は、multidisciplinaryとinterdisciplinaryの違いについて次のように整理している。前者は各専門領域の専門家が結果を出し、それをリーダーがまとめるといったアプローチであり、個々の独立した専門分野の相互作用が少なく並列的に存在し、独自的に貢献している状態を示しており、原学際性ともいえる学際の一番基本的な位置にある。一方、後者は各専門領域の専門家や非専門家が相互に各自の知識を交換しながら、グループとして問題を定義し、解決をめざすアプローチである。この場合、リーダーの大切な役割は、いかにうまくコーディネーション(調整)するかということになろう。表1のデータは、実際の学際研究の多くがこの原学際的領域を脱していないことを示しているのかもしれない。また、アメリカにおける2000年代に入ってからのinterdisciplinaryの復興は、その重要さが再認識されてきたことを反映しているともいえる。

表1. 学際の各区分における該当論文数と最も古い論文の発表年
(文献検索サイト the ISI Web of Knowledge による2009年11月13日現在の結果 )
区分該当論文数最古発表年
multidisciplinary
(multi-disciplinary)
29244
(3048)
1948
(1965)
interdisciplinary
(inter-disciplinary)
23263
(500)
1951
(1947)
crossdisciplinary
(cross-disciplinary)
26
(1152)
1994
(1962)
transdisciplinary
(trans-disciplinary)
907
(133)
1970
(1976)

2. 学際研究の進め方

 渡辺ほか(1973)によれば、学際研究の手順は、1)学際思考の動機となる新しい解決策を模索する目的を持つ、2)できるだけ広い範囲から少しずつ、思考のもとになる要素を抽出して、たくさん集めておく。例えば多くの異なる専門家に集まってもらい、目的を話し、その目的に役立つものを発表してもらうことで、個人では思いも及ばない多くの知見を得ることができ、これが要素となる。3)たくさん集めた要素を目的にどう役立てるかを検討する。一つ一つの要素はそれ自体が目的にかなわなくとも、二つ以上の要素を組み合わせてみて、その結合が目的にかなうかどうかを調べることで、要素間に新しい機能分担を規定する。4)さらに時間的流れにしたがって、手順を決める、という順である。学際研究は目的を明確にし、目的の実現を強く意識する解決志向型の研究であると言い換えることができる。

 学際研究が比較的早い時代から行われてきた環境学では、専門を深化させようとする縦型の学問体系に、分野間を横型に結びつけようとする際にジレンマが生じ、これが学際の壁となるという(竹内ほか、2002)。その原因は三つあり、一つは専門分野間の関連性が弱いこと、二つ目は専門と学際を一人の人間がこなすことの困難さ、三つ目は扱う問題が複雑で新たな体系を構築することが容易ではないということにある。現在、学際にはこれまで以上に自然科学と人文社会科学の融合が必要と想定されることから、問題に関する基本事項について共通認識が必要になる。したがって、学際研究を成功させるには、分野間で使っている専門の用語、概念、基本的アプローチの特色を、他の専門分野の研究者に明確に伝え、使用する用語等に関する共通の理解あるいは共通の言語が必要である。また、専門分野間の諸問題が複雑に変化するので、上手なコーディネーションが鍵となる。学際研究の実施には、素養を持ったリーダーを選び、リーダーの役割を明確化することが大切と考えられる。そうした素養のあるリーダー的存在を育てることが、大学や大学院教育の重要な役割と言える。

参考文献
  • 赤司秀明(1997):学際研究入門(一松信監修).コスモトゥーワン,東京,175 pp.
  • シェリフ,MとCWシェリフ(1971):学際研究—社会科学のフロンティア—.鹿島研究所出版会,東京,388 pp.
  • 竹内和彦・住明正・植田和弘(2002):環境学序説.岩波書店,東京,190 pp.
  • 渡辺茂・香山健一・合田周平・公文俊平(1973):学際思考のすすめ.日本経済新聞社,東京,173 pp.
Contents
研究者発の海の話
水産業の振興に向けた海の「砂漠化」対策
海溝というもの
漁村を活性化するのは「心」なのか「環境」なのか?
高性能な船を実験水槽で開発する方法をウェブでわかりやすく説明する
地球温暖化だけでサンゴ礁の国は水没しない
海中ロボットで海を身近に
河川の構造物はニホンウナギの行く手を阻んでいるか?
「赤潮」の頻発と養殖漁業 ~インドネシア・ランプン湾を例に~
大学における学際海洋教育を推進するための基礎データ
島嶼(とうしょ)における海洋保護区のあり方と意義
海洋生物の多様性保全と利用を考える
海を守る、地球を守る
我が国の離島の保全・管理や振興
海面上昇に対する沖ノ鳥島の維持
「海」から展開する情報プラットフォームとネットワーク
海洋深層水の利用
うみあるきとは?-システム開発の目的と方針
現代の海賊問題と日本
沿岸域利用についての合意形成メカニズムの評価検討
次世代海洋研究者の育成
陸と海のつながりと海洋生態系
大学における学際的海洋教育研究
漁業をまもる先端技術
海底に眠る鉱山—熱水鉱床
海洋に関わる諸活動のコスト・ベネフィット評価
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