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学際的海洋教育とその延長上の問題

カテゴリ 大学における学際的海洋教育研究
掲載日 2010.04.19
海洋アライアンス 福島朋彦
統合的海洋管理を含めて海洋政策への取り組みが求められている。

左 「21世紀の海洋の青写真」
(米国海洋政策審議会報告書)
右 「21世紀の海洋政策への提言」
(海洋政策研究財団)
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 国連海洋法条約が発効し、沿岸域から深海底に至るまで、世界の海の4割以上が沿岸国に管理されるようになった。しかし管理区分が明確になっても、高度回遊性の種は排他的経済水域や公海の境界を自由に行き来し、石油・天然ガスなどの海底下の資源は管轄域の線引きとは無関係に存在する。このように、沿岸国の管轄域拡大に伴い、海は様々な調整が求められる国際的な場所となった。今、この状況に対応すべく、統合的海洋管理が求められている。わが国でも統合的あるいは総合的な海洋管理の重要性は様々な形で訴えられてきた。2000年には経済団体連合会が「21世紀の海洋のグッドデザイン」のなかで沿岸域の統合管理の必要性を提言した。2002年に科学技術・学術審議会は、知る・守る・利用するのバランスのとれた総合的な海洋政策をとるよう文部大臣に答申している。2007年に施行された海洋基本法は、海とともに生き抜くわが国の基本姿勢を打ち出すとともに、海洋の総合管理の必要性を謳い、さらに海洋に関する政策課題に対応する人材(以後、便宜的に海洋総合人材という)の育成を大学等の教育機関に求めている。

統合的海洋管理を含めて海洋政策への取り組みが求められている。

学際的海洋教育を示す概念図
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 過去においてわが国では、海洋教育と称して、海運、水産、造船などの特定分野の人材育成を行ってきた。現在の東京海洋大学、神戸大学海事科学部、水産大学校、東京大学農学部水産科および北海道大学水産学部などの前身は、こうした専門技術者養成機関にある。これらの教育が海洋国日本の発展に貢献したことは論を俟たないが、一方で海洋総合人材に必要な知識は実社会のなかで学ぶのが一般的であった。しかし最近になって、京都大学、東京海洋大学、横浜国立大学および東京大学などが、既存の学問領域を越えた横断的海洋教育(以後、学際的海洋教育)を開始した。これは大学が、前述したような、社会の要請に応えようとした結果でもある。


海の専門教育 ~海の専門教育は特定分野の人材育成の一環として行われてきた~
設立設立年現在
商船教育  
三菱商船学校 明治8年 東京海洋大学(海洋工学部)
私立川崎商船学校 大正6年 神戸大学(海事科学部)
清水高等商船学校 昭和18年 同上
(文部省所管)商船学校 昭和15年 国立商船専門学校
通信省児島海員養成所 昭和14年 独立行政法人海員学校,海上技術短期大学校,海上技術学校
航海練習所 昭和18年 独立行政法人航海訓練所
水産教育  
東京農林学校 明治20年 東京大学農学部
水産伝習所 明治21年 東京海洋大学(海洋科学部)
札幌農学校 明治40年 北海道大学水産学部
釜山高等水産学校 昭和16年 独立行政法人水産大学校
海上保安  
中央保安講習所 昭和21年 海上保安大学校
無線通信教育  
無線電信講習所 大正8年 電気通信大学
防衛関係教育  
保安大学校 昭和29年 防衛大学校

 海洋総合人材の育成が社会の要請と関わりがあったとしても、教育を推進する者は教育を受ける学生側の視点も考慮しなければならない。つまり卒業あるいは修了後の活躍の場を確保する配慮が必要である。わが国は、過去において、大学院重点化計画やポスドク等一万人支援計画を実施し、短期間のうちに大量の博士を増加させた。その一方でアカデミックポジションの数を年々減少させ、ポスドクの後に専門的な知識を活かす職場に就職できない人材を生み出してしまった。ここに供給過多と需要減少という不一致がある。ところが国際機関に目を転じると、日本人専門職員の割合は著しく低いという逆の不一致がある。例えば、国連の分担金を16%以上負担しているわが国であるが、国連事務局に勤務する職員数は約4%の113人である(2008年時点)。これは国連事務局が示している望ましい日本人職員数の下限の2分の1にも満たない(外務省総合外交政策局資料より)。こうしたミスマッチの解消は学際的海洋教育の延長線上にある重要な課題である。

 大学における学際的海洋教育は緒に就いたばかりである。今後試行錯誤が繰り返されることも、方向が修正されることもあるかもしれないが、社会の動きと人材育成の延長線上にある需要拡大のバランスを忘れるべきではない。

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