研究者発の海の話研究者発の海の話

現在社会が求める海洋問題の抽出と整理の試み

カテゴリ 大学における学際海洋教育を推進するための基礎データ
掲載日 2014.01.24
東京大学 福島朋彦 ・ 海洋政策研究財団 酒井英次
東京工業大学 太田絵里(元海洋政策研究財団 ) ・ 徳島大学 山中亮一

1.緒言

 導入部のコラムでも述べたとおり、大学における学際的海洋教育に関する研究会(以後、研究会)は学際的海洋教育の概念を共有するために下記のような独自の定義をつくった。それ以降、定義の内容に具体性を与えるための作業を続けている。本稿が扱う海洋に関する諸問題の抽出と整理もその一つで、定義のなかの「社会が解決を求めている課題」との対応を念頭に置いている。しかしながら、海洋に関連する事項は、水産、資源・エネルギー、海運、安全保障、環境保全など多岐にわたっているので、思いつくままに課題を書きだしたとしても、抽出にはなっても整理の名に値しない。また研究会が対象としたのは、分野を横断して解決する課題であり、専門領域のなかに存在する固有の研究課題は対象範囲を越えるものである。そこで本稿では問題の所在あるいは解決策が既存の分野を横断する課題を対象に、予め選定した資料に基づいて抽出および整理を試みることとした。

学際的海洋教育
社会が解決を求める海洋に関わる様々な課題について、分野横断的な視点をもち、
統合的に解決策を検討しうる海の総合人材を育成するための教育

2.資料と方法

(1) 資料

 課題の抽出に際して、前述の定義と対応するように最近の課題(今日的課題)、幅広い視点(分野横断的)及び問題解決の視点(問題解決型)に着目するとともに、作業の効率を考慮し、海洋に関する「今日的課題」を抽出する資料として海洋白書(以後、資料1)海洋に関する「幅広い視点」を反映する資料として人と海洋の共生をめざして 150人のオピニオン(以後、資料2)、そして海洋問題に関する「分野横断的」かつ「問題解決型」の姿勢を示す資料として、海洋問題入門-海洋の総合的管理を学ぶ-(以後、資料3)を選定した。

(2) 方法

 海洋の問題に限らず、一般社会にある問題の多くは解決のための道筋が一本とは限らない。特に本稿で扱うような分野横断型の課題を対象とするならば、尚更、入り組んだ道筋が予想される。したがって課題解決の方向を探ろうとしても、複数のプロセスが交錯し、トートロジーに陥ることもありうる。そこで本稿では、一足飛びに課題抽出・整理するのではなく、海洋関連事項の全体像を俯瞰するためにキーワード抽出を先行し、続いて海洋問題の抽出を試みた。前者については資料3を用いて、後者については資料1,2,3を用いた。またいずれについても、抽出作業の後、海と人間の関わり方に基づいてグループに分けた。

3.予察的結果及び考察

(1) キーワード抽出

 キーワード抽出では、3つの大項目と9つの小項目に区分し、重複を含みつつも、1111語を抜き出した(表1)。1つめの大項目「海のしくみ」は、海洋そのものを理解するうえで必要な基本的な科学用語であり、地球規模と沿岸域に分けてそれぞれ208,76語を抽出した。但し自然現象を対象にしたキーワードなので、人間活動との関わりは他のグループと比較して希薄である。「海の利用」は、産業との関連を考慮しつつ、水産関係、海事関係、海洋・資源開発、レジャー関連の4つの小項目に分け、80,162,131,62語を抜き出した。産業が対象であるため人間活動とは関連性深いが、ある特定分野に限定され、横断的広がりは乏しい場合もある。「海の管理」については、安全、環境及び総合の3つの小項目に分け、それぞれ93,125,174語を抽出した。「管理」自体が人の営みであるため、「海の利用」の4つのカテゴリーと同様に、人間活動との関わりは深い。また海と人間の関わりは利用することに限らないため、「海の利用」よりも領域横断的なカテゴリーである。

表1 キーワード抽出結果
大項目小項目Key Word数資料中での主に該当する章・節
海のしくみ1地球規模2082.1.
海のしくみ2沿岸域762.2.
海の利用1水産関係801.1.,3.1.1.
海の利用2海事関係1621.2.,3.2.
海の利用3海洋・資源開発1311.3.,3.1.2.,3.1.3.,3.3.1.
海の利用4レジャー関連623.3.2.
海の管理1安全934.3.
海の管理2環境1251.4.,4章
海の管理3総合1744章,5章

 ここに示したキーワードは、資料3の内容を理解するために必要な用語を列挙したものであって、直ちに「海洋の問題」と結びつくものではない。特に海のしくみのなかで列挙したキーワードは、海洋を理解するうえでの基本的な用語ではあるが、直接的には"問題"ではない。しかし全体像を俯瞰するという意味において、海洋の問題の横断的特徴を垣間見ることができる。

(2)問題抽出

 前述の3資料を精査し、580項目の海洋問題を抜き出した。それらをキーワード抽出の節で用いた区分から、「海のしくみ」を除いた2大項目7小項目、すなわち「海を利用する:水産関係、海事関係、鉱業、海洋開発・レジャー産業」及び「海を管理する:安全、環境、総合」に分けて整理した(表2)。それぞれの項目間に多寡があるが、これらの区分自体が筆者らの主観的な設定であり、定量的な意味合いを持つものではない。しかし定性的には、現在注目されている海洋問題の分布把握の一助になると考える。

表2 海洋問題の抽出結果
大項目中項目問題数
海を利用する1水産関連109
海を利用する2海事関連91
海を利用する3海洋・資源開発102
海を利用する4レジャー関連38
海を管理する1安全40
海を管理する2環境83
海を管理する3総合117

 実際の海洋問題には複数の原因とそこから生じる複数の結果があり、その結果もある側面から見れば人間の生活に不利益をもたらすが、視点を変えれば益する場合もありうる。本稿は、それらを整理という目的のもとで一つの型にあてはめているのであるから、問題の単純化となる。しかしながら本研究は教育を前提としているのであるから、基礎段階として代表的な視点を提示することは自然な方向性である。その意味で本資料を課題設定型の学際的海洋教育を行ううえでの基礎的なデータベースの一つとして位置付けたい。

4.今後の取り組み

  本稿は、「大学における学際海洋教育を推進するための基礎データ」の一部としてまとめたものであり、データを提示したことで所期の目的は達成している。しかし、これらの問題と解決策の構造を抽象化することで、学際的海洋教育の内容をより体系化しやすくなると考える。今後、海洋問題に関する1)構造の整理、2)構造の抽象化、及び3)解決策の整理、等に取り組みたい。

謝辞

 本稿を纏めるための基本となる研究は、科研費(23531109)の助成を受けて行われました。また東京大学海洋アライアンスの活動は日本財団の支援により実施されています。

参考文献
  • 福島朋彦・向井宏・末永芳美: 新しい海洋秩序に伴う学際的海洋教育, 第22回海洋工学シンポジウム論文集, 日本海洋工学会・日本船舶海洋工学会、東京、2008.
  • 福島朋彦・酒井英次・太田絵里・山中亮一: 教科書のなかの海に関する記述についての予察的検討, 東京大学海洋アライアンス知の羅針盤,2013.
  • 海洋政策研究財団編: 海洋白書2006-2011. 成山堂.
  • 海洋政策研究財団編: 人と海洋の共生をめざして 150人のオピニオンⅠ~Ⅴ.海洋政策研究財団.
  • 海洋問題入門-海洋の総合的管理を学ぶ-, 海洋政策研究財団編, 丸善, 2007.
  • 大学における学際海洋教育を推進するための基礎データ: http://www.oa.u-tokyo.ac.jp/learnocean/researchers/kyoiku-02/
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教科書のなかの海に関する記述についての予察的検討
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