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マラッカ・シンガポール海峡、アデン湾における海賊事件

カテゴリ 現代の海賊問題と日本
掲載日 2010.10.12
公共政策大学院 長谷知治

1.個別海域の状況-マラッカ・シンガポール海峡

(1) 海峡の現状

マラッカ・シンガポール海峡の概況

マラッカ・シンガポール海峡の概況(出典:国土交通省資料)
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 マラッカ・シンガポール海峡は、世界有数の船舶交通が輻輳する国際海峡であり、狭隘な地形、浅瀬・沈船等が点在し、可航幅が狭く、航行が困難である。また、海峡は、沿岸国(インドネシア、マレーシア、シンガポール)の領海及び排他的経済水域内にあり、海峡における安全対策は、沿岸国の主権への配慮が必要とされている。このような地勢的要件、主権への配慮からくる取締りの困難性もあり、沿岸地域の貧困層による海賊を多発させる要因となっていた。
 航行の状況についてみると、日本関係船舶の航行数は年間約14,000隻と全体93,000隻(2004年)の約2割を占め、今後も増加が予想される極めて重要な海域となっている。我が国輸入原油の9割以上、天然ガスの22%が通航しているなどエネルギー安全保障上も重要であり、マラッカ・シンガポール海峡と通航せず、ロンボク海峡、スンダ海峡等に迂回すると燃料費・航海日数の増大等経済的損失が大きい。

(2) 日本関係船舶が関連した主な海賊事件

 1999年10月、日本の船会社が運航し、日本人船長、機関長が乗船したパナマ船籍の貨物船アロンドラ・レインボウ号が、インドネシア出港後、海賊の被害を受け消息不明となり、11月にタイの水上警察に保護された。本事件は、日本人が被害を受けた初めての事例。また、2005年3月、日本船籍のタグボート韋駄天号が海賊の被害を受け、日本人船員2人を含む3人が連行された。

(3) マラッカ・シンガポール海峡における海賊対策の現状1)

1) 日本の国際的な取り組み

 アロンドラ・レインボウ号事件を受け2000年4月に海賊対策国際会議を開催し、海賊問題に関して、自主警備対策の充実、国際的な情報連絡・連絡体制の確立等、対策の柱を「東京アピール」としてとりまとめるとともに、海事当局及び船会社や船員等が取り組むべき具体的な行動指針を記した「海賊対策モデルアクションプラン」を策定している。

2) 海上保安機関間の取り組み

 「アジア海上保安機関長官級会合」を開催(2004年6月、2006年3月、2007年10月、2008年10月)している他、アジア地域の海上保安機関間の連携協力関係の構築と関連情報の交換や東南アジア各国・地域の海賊専門家会合の開催支援、海上保安庁の巡視船・航空機を派遣して各国海上保安機関との連携訓練や巡視船・教育訓練船の供与等を実施している。

2. 個別海域の状況-ソマリア沖・アデン湾

(1) 海域の現状

アデン湾の概況

アデン湾の概況(出典:国土交通省資料) [図を拡大]

 同海域はスエズ運河へと通じるヨーロッパとアジアを結ぶ航路の要衝であり、重要な海域である。日本関係船舶の航行数は年間約2,000隻と全世界(約20,000隻)の約1割を占めているなど日本の経済にとっても、重要な海域の一つであり、喜望峰回りで迂回すると経済的損失が大きい。
 一方、沿岸国であるソマリアは1991年以来内戦状態となり、92年から95年に国連PKO活動が行われるが失敗に終わり、2005年にソマリア暫定政府(TFG)が成立したものの、ソマリア全土を統治する能力がない状況にある。このように本海域における海賊の多発については、ソマリアの中央政府が存在せず、法執行・司法機関が機能していないことが大きな要因と指摘されている。

              

(2) 日本関係船舶の関連した主な事件

 2007年10月アデン湾でケミカルタンカー「GOLDEN NORI」が乗っ取られた他、2008年4月アデン湾で原油タンカーで日本船籍の「高山」が海賊の襲撃を受けた。最近では2010年4月にコンテナ船でパナマ船籍の「HAMBURG BRIDGE」が海賊の追跡・銃撃を受ける等、これまで日本関係船舶は6件の被害を受けている。

(3) 国際的な取り組みの現状

1) 日本、欧米諸国、中国、韓国、インド等30カ国以上の国・国際機関が軍艦・哨戒機を派遣2)
2) 国際海事機関(IMO)

 IMOにおいては、従前より海賊対策の検討が行われ、特に1993年には2つの回章(各国政府への勧告、船主・船舶運航者等へのガイドライン)を発出するなどしていた。ソマリアについては、2007年11月の第25回総会において決議A1002を採択したほか、2009年1月ジブチにおいてIMO主催のソマリア周辺海域海賊対策地域会合を開催し、「西インド洋及びアデン湾地域における海賊及び武装強盗の抑止に関する行動指針」等を採択した。行動指針は公式のものではないが、海賊防止のための協力、海賊情報共有センター及び訓練センターの設置等を規定している。

3) ソマリア沖海賊対策に関する国連安全保障理事会閣僚級会合及びコンタクト・グループ会合3)

 国連安保理決議第1846号に基づき安保理閣僚級会合が2008年12月に開催。また2009年1月に国連安保決議第1851号に従い、ソマリア沖海賊対策に関する国際協力メカニズムとして、ソマリア沖海賊対策コンタクト・グループ第1回会合が開催され、情報共有センター設置の検討や4つの作業部会の設置等が決定された。これまで5回開催されている。

(4) 日本の取り組みの現状

1) 沿岸国への支援として日本は2009年度補正予算で訓練センター、情報共有センター等の設置に対する支援として、IMOに対して約14億円を拠出した(2009年9月のコンタクト・グループ会合の際にIMOにマルチ・ドナー基金が正式に設立)。
2) 海上保安能力の向上を目的とした研修にイエメン、オマーン、ケニア及びタンザニアの海上保安機関の職員を招請。
3) 海賊被疑者の訴追費用支援として、ソマリア沖の海賊に対処する各国のイニシャティブ支援のための国際信託基金に50万ドル拠出するほか、ソマリアに対する食糧支援、難民支援、人道支援等を実施している。

(注1) ReCAAPについてはコラム「海賊をめぐる国際的な協力」を参照

(注2) コラム「日本の海賊法制」も参照

(注3) 国連安保理決議についてはコラム「海賊をめぐる国際的な協力」を参照

Contents
研究者発の海の話
水産業の振興に向けた海の「砂漠化」対策
海溝というもの
漁村を活性化するのは「心」なのか「環境」なのか?
高性能な船を実験水槽で開発する方法をウェブでわかりやすく説明する
地球温暖化だけでサンゴ礁の国は水没しない
海中ロボットで海を身近に
河川の構造物はニホンウナギの行く手を阻んでいるか?
「赤潮」の頻発と養殖漁業 ~インドネシア・ランプン湾を例に~
大学における学際海洋教育を推進するための基礎データ
島嶼(とうしょ)における海洋保護区のあり方と意義
海洋生物の多様性保全と利用を考える
海を守る、地球を守る
我が国の離島の保全・管理や振興
海面上昇に対する沖ノ鳥島の維持
「海」から展開する情報プラットフォームとネットワーク
海洋深層水の利用
うみあるきとは?-システム開発の目的と方針
現代の海賊問題と日本
沿岸域利用についての合意形成メカニズムの評価検討
次世代海洋研究者の育成
陸と海のつながりと海洋生態系
大学における学際的海洋教育研究
漁業をまもる先端技術
海底に眠る鉱山—熱水鉱床
海洋に関わる諸活動のコスト・ベネフィット評価
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