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海賊行為と戦う民間護衛会社

カテゴリ 現代の海賊問題と日本
掲載日 2010.10.12
グリフィス大学(オーストラリア) カロリン・リス(Carolin Liss)

 民間護衛会社(Private Security Companies: PSCs)は、民間軍事会社(Private Military Companies: PMCs)や民間軍事請負企業(Private Security Firms: PSFs)とも呼ばれ、ここ20年で台頭してきており、過去には主に行政機関の責務であった軍事および護衛に関して幅広いサービスを提供している。PSCは世界中で活発に活動しており、兵站支援、リスク分析、軍隊の訓練や諜報活動から紛争地域での資産および人命の保護まで、様々なサービスを提供している。

ソマリア沖でハイジャックされたFaina号の乗組員と海賊たち(出典:2008年11月、米国海軍HP)

ソマリア沖でハイジャックされたFaina号の乗組員と海賊たち-2008年11月(出典:米国海軍HP)

 世界における民間軍事護衛サービスの需要の一部は海事部門にある。実際、今日のPSCが請け負っているのは、世界の海の保安、より明確に言うと、商船、ヨット、クルーズ船、海上エネルギー設備、コンテナターミナルや港湾の護衛である。これら護衛の課題に対応するため、PSCは広範なサービスを提供している。これらのサービスには、船主および港湾作業員のためのリスクおよび脆弱性評価とコンサルティング、海軍および海上保安部隊の訓練、保険金詐欺および船荷に関する犯罪の調査、さらには政情不安地域における反体制派またはテロリストによる襲撃からの海上石油プラットフォームの保護などがある。海事部門で活動している大部分の会社は、以下のような広範な海賊対策サービスも提供している。

1.リスク評価とコンサルティング

ほぼすべての会社は、リスクコンサルティングサービスを提供しており、定期的に発行、改訂される全般的な政治リスク報告書、または顧客ごとに特製するリスクアセスメントのいずれかを備えている。これらのサービスは、港湾設備または船舶に対する脅威の評価、雇用前審査から危機管理計画立案にまで及ぶ。

2.船員、港湾管理職員、または軍隊および法執行機関部隊の訓練、船舶追跡

これらのサービスには、海賊行為への対応とその防止策に関する講習会など、船員のための安全認識訓練コースがある。法執行官または軍人向けのより高度な訓練を提供している会社もある。

3.船舶搭乗(武装)護衛員または船舶護衛サービスの提供

多くの会社が、海賊行為またはテロ襲撃を防止またはそれらに対処すべく、商船またはヨットに護衛船または武装/非武装護衛員を差し向けるサービスを提供している。

4.ハイジャックされた船舶および貨物船の危機対応、調査および奪回、人質となった船員の救出

多くの会社が、襲撃の調査、ハイジャック船および盗まれた貨物の回収などの危機対応サービスを提供している。船員が人質となっている場合の救出交渉支援サービスを提供している会社もあり、中には、交渉が失敗した際の人質救出に備えているところもある。

5.水産業保護

これらのサービスは、地元の漁師を違法な外国漁船や海賊から保護するものである。

 従ってPSCは、防止策と同時に襲撃後に関してもサービスを提供し、商船およびクルーズ船に対するあらゆる種類の海賊行為に対応している。例えば、当て逃げ略奪や海賊シンジケートによる襲撃は、船員を訓練したり、護衛員を船舶に搭乗させたりすることで防げる可能性がある。一方、ハイジャック船の船主は、事件が起こった際には危機管理支援サービスを依頼し、または船舶や盗まれた貨物を移動または回収する会社と契約することができる。

 海賊対策サービスを提供しているPMCは、例えば教育、医療、電気水道のような公益事業など、冷戦終結後の公共事業や国有企業の非常に広範な民営化プロセスの一部として台頭してきた。この過程は、新古典主義経済学の前提を具体的な政策へとより一般化することをねらった新自由主義改革の一部であった。それ故、民営化は、貿易自由化、規制撤廃および緊縮財政と並行して、重要な政策の焦点となった1)

 海賊対策サービスや他の海上サービスを提供している多くのPSCは、より規模の大きなPSCまたはセキュリティ産業に属さない多国籍企業のいずれかの一部門であるか、またはその関連会社である。このようなサービスを提供するより規模の大きな会社の多くは、米国および英国にその本拠を置いており、その多くが世界中に事務所を構えている。さらに、海賊対策サービス需要の高い地域などでは、より規模の小さな会社が多数設立されている。海賊対策サービスを提供しているほとんどのPSCは、主として退役軍人や元警官(警察当局の関係者)によって設立され、同種の者を雇用しているようであり、常勤職員は少数、事務所もひとつに抑え、インターネットに印象的なサイトを展開して営業しているのが普通である。これらの会社は、顧客との契約が締結されるたび、案件ごとに追加要員を雇い必要な資材を調達する。これにより、会社は限られた費用と資本で事業を行うことができる。この種の会社設立方法は、顧客の必要に特に合わせて資材を調達し人員を雇い入れるため、顧客にとって都合が良いのはもちろん、会社にとっても、必要に合わせて迅速に解散、再編できるというメリットがある。

 PSCに船舶保護を依頼するのは費用がかかり、従ってこのような会社は、海賊が重大な脅威であり、政府軍が輸送の安全を確保できない地域でのみ利用されている。そのため、ほとんどのPSCは、マラッカ海峡や、さらに一層危険性が高く現在のところ最も大胆な海賊攻撃が起きているソマリア沖やアデン湾のような海賊行為のホットスポットで活動している。実際、これらの水域でターゲットにされる危険性は極めて高いと考えられており、アデン湾を横断する船舶は、ますますPSCの護衛に依存するようになってきている。これらの水域で活動している海賊が、ハイジャック船や人質の船員と引き換えに何百万米ドルも稼いでいるため、船主や荷主、保険会社やPSCの他の顧客にとって、PSCのサービスに支出される追加費用は、ますます正当化しやすいものとなっている。2001年9月11日のテロ襲撃の時とちょうど同じように、現在のソマリア沖海賊攻撃の多発が、海賊対策サービスを提供している会社の数の増加に一役買っている。

 しかしながら、ソマリア沖および世界中の他の地域で海賊対策サービスを提供するPSCへの依頼が増加することは、物議をかもしている。関心の的は、主として透明性の欠如や、公的機関によるこれらのPSCの業務とビジネス手法の監視の欠如、そして、国家安全保障の保護と兵役提供を利益志向の民間企業ではなく政府の管轄として保持しておくべきか、という諸問題である。PSC支持者は、これらの会社は政府軍より効果的な軍事サービスをより競争的価格で提供することができ、より迅速に危機に対処することができると主張しているが2)、一方、批評家は、PSCが武装した護衛員や護衛船を提供して商船を護衛するのを認めるべきかどうかに疑問を呈している。懸念されているのは、例えば、PSCの社員が過剰に暴力を働く可能性で、大型貨物商船やタンカーに搭乗する護衛員が、手にある武器を不注意または軽率かつ勇み足な方法で扱えば、悲惨な結果を招く可能性があることが強く主張されてきた3)。主に陸上で活動するPSCの行為を巡るスキャンダルの報告が、このような懸念に拍車をかけてきた。例えば、紛争地域でのPSC社員による見物人や市民の殺害、自分達の利益を増やすための紛争引き延ばし、犯罪への関与4)、鉱山または石油採掘権の形で報酬を受けている、などが疑惑として挙げられている5)。そのため、海上および陸上におけるPSCの活動に懸念を抱く者たちは、これらの会社に関する国内・国際的規則および監視体制が欠如している、との認識を高めてきた。その結果、世界各国の政府、多国間組織および他の組織は、陸上・海上の民間安全保障部門の規制に関する問題に、ゆっくりとではあるが、ようやく取り組み始めている。

※本コラムは、東京大学海洋アライアンス・イニシャティブ研究課題「東アジア海上交通ネットワーク研究者ネットワークの形成」の一環として、海洋政策学ユニットのメンバーとの共同研究を元に執筆されたものです。

(注1)新自由主義改革と民営化について、さしあたり以下を参照。Christopher Colclough and James Manor, States or Markets? Neoliberalism and the Development Policy Debate (Clarendon Press, 1991). Garry Rodan, Richard Robison and Kevin Hewison, eds., The Political Economy of South-East Asia, Second Edition (Oxford University Press, 2001). John Harriss, Depoliticising Development (Anthem Press, 2002). Joseph Stiglitz, Globalisation and Its Discontents (Penguin, 2002). ジョセフ・スティグリッツ(鈴木主税訳)『世界を不幸にしたグローバリズムの正体』(徳間書店、2002年)

(注2)PSC支持者の主張を参考に紹介する。Brooks, D (2000) 'Messiahs or Mercenaries The Future of International Private. Military Services', International Peacekeeping Vol. 7, No. 4, pp. 131-2.

(注3)FASA(アセアン船主協会連合会)、IMO(国際海事機関)および他の様々な海事組織の代表者は、武装護衛隊は一般的にすでに不安定な情勢を一層悪化させる可能性があり、石油または化学タンカー上で銃撃戦が起これば悲惨な結果を招きかねない、と指摘してきた。 Karl Malakunas, "Armed Escorts in High Demand on Sea", in Peninsula, 2005 (accessed 13 May 2005).

(注4)よく知られている例をひとつ挙げると、2000年にボスニアおよびコソボにおいて、DynCorpの社員が女性や子供の人身売買やレイプに関与した、というものである。International Consortium of Investigative Journalists, Making a Killing (Center for Public Integrity, 2003), Chapter 2, p. 10.

(注5)シンガー(Singer)は、鉱山または石油採掘権の形での報酬は、問題の国に潜在的に貴重な資源およびそこからの利益を、紛争修了後何年もの間失うことになるため、顧客の国に長期的影響を与える可能性がある、と指摘している。Singer, Corporate Warriors (Cornell University Press, 2003), pp. 166-7.

Contents
研究者発の海の話
水産業の振興に向けた海の「砂漠化」対策
海溝というもの
漁村を活性化するのは「心」なのか「環境」なのか?
高性能な船を実験水槽で開発する方法をウェブでわかりやすく説明する
地球温暖化だけでサンゴ礁の国は水没しない
海中ロボットで海を身近に
河川の構造物はニホンウナギの行く手を阻んでいるか?
「赤潮」の頻発と養殖漁業 ~インドネシア・ランプン湾を例に~
大学における学際海洋教育を推進するための基礎データ
島嶼(とうしょ)における海洋保護区のあり方と意義
海洋生物の多様性保全と利用を考える
海を守る、地球を守る
我が国の離島の保全・管理や振興
海面上昇に対する沖ノ鳥島の維持
「海」から展開する情報プラットフォームとネットワーク
海洋深層水の利用
うみあるきとは?-システム開発の目的と方針
現代の海賊問題と日本
沿岸域利用についての合意形成メカニズムの評価検討
次世代海洋研究者の育成
陸と海のつながりと海洋生態系
大学における学際的海洋教育研究
漁業をまもる先端技術
海底に眠る鉱山—熱水鉱床
海洋に関わる諸活動のコスト・ベネフィット評価
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