研究者発の海の話研究者発の海の話

お父さんお母さん船に乗る ~明日の海洋科学サポーター~

カテゴリ 次世代海洋研究者の育成
掲載日 2010.10.12
大気海洋研究所 浜崎恒二

 秋晴れのすがすがしい青空のもと、クリーム色の大きな船体がゆっくりと岸壁を離れて行く。いよいよ学術研究船白鳳丸1)による一日体験クルーズ「白鳳丸海洋科学教室」が始まった。アッパーデッキに集まった30人程の体験乗船者が、レインボーブリッジを下から見上げながら、船が海に出て行く様子を体感している。中学生と高校生を対象としたこの企画は、大型研究船による体験航海と船上実習を通して、生物、物理、化学、地学などあらゆる学問分野のエッセンスが凝縮された海洋科学のダイナミックな魅力と、そこで働く研究者たちのリアルな姿を感じてもらおうという趣旨で実施された。東京大学海洋研究所(現在は大気海洋研究所)の教員が企画し、実際に研究船を使った研究に従事している現役バリバリの研究員や大学院生が、子供たちとお父さんお母さんたちの一日体験航海の指導役を担ってくれた。

晴海埠頭に停泊中の学術研究船白鳳丸

晴海埠頭に停泊中の学術研究船白鳳丸

ブリッジ(船橋)からみたレインボーブリッジ

ブリッジ(船橋)からみたレインボーブリッジ


 船の出港には、未知なるものへの冒険心や好奇心、探究心をそそられる何とも言えないワクワク感がある。科学研究の営みにも、同じようなことが言われるが、大型研究船に乗ってまだ誰も知らないことを探しに行く興奮は格別のものである。「白鳳丸海洋科学教室」は、このワクワク感を人生で最も多感な時期の子供たちに感じとってほしいと願い実施してきた。「面白かったので一日がとても短かった」「今までしたことのない経験がたくさんできた」「私たちも研究者なった気分が味わえた」昨年同様に、子供たちの感動の様子が伝わってくるような感想をたくさんもらうことができた。生き生きとした原体験が、次世代の海洋科学サポーターを育てることにつながると改めて認識させられた。

 教育や体験の機会を通して、多くの人が海に関心をもち、正しい知識や情報が得られるような環境づくりをすることが、「海洋立国」日本を支える基礎となることは間違いないだろう。今回の教室には、中学生や高校生と共に、その保護者や教員の参加もあった。一度に乗船できる人数には限りがあるから、子供たちの教育に携わる学校の先生方の参加は大いに歓迎である。「海洋研究の現場を知ることができ、また、研究者からも話を聞くことが、高校生に、その様子を話すことができ、参考になった」「今後もこういった企画がありましたら、生徒への告知に務めたいと思いますので、よろしくお願い致します」先生の感動が教え子たちに伝わることを願っている。また、お父さんお母さんも大事なサポーターである。子供と一緒に味わった感動は、お互いに語り合うことによって増幅され、長くそして繰り返し記憶に残って行くだろうからである。「海洋学といっても、なんのために大切なのか、何を実際におこなっているのかわからないでいましたが、体験してみて、大変さや、大切さ、発見研究の楽しさを知りました。」「初めての体験でしたが、今まであまり海には興味がなかったのですが、色々なお話を聞くことができ、体験でき、よかったです。」新たな海洋科学サポーターが加わった瞬間である。

 海洋基本法のもとで実施される基本施策として、「海洋科学技術に関する研究開発の推進等」「海洋に関する国民の理解の増進と人材育成」が挙げられている2)。海洋科学に携わる研究者は、前者の研究開発への貢献に加えて、後者への貢献も求められてゆくだろう。研究の内容や成果をわかりやすく伝えることは、納税者への説明責任を果たすという消極的な理由に止まらず、今回の企画のような現役研究者のリアルな体験にもとづいた教育啓蒙活動によって海洋科学研究の理解者であり支持者である「海洋科学サポーター」を増やすことにつながって行くに違いない。

(注1)晴海客船ターミナル横の埠頭に繋がれているので機会があれば見て欲しい。
http://www.aori.u-tokyo.ac.jp/coop/hakuhomaru.html

(注2)海洋基本計画の内容については、官邸のサイトに掲載されている。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kaiyou/kihonkeikaku/

Contents
研究者発の海の話
水産業の振興に向けた海の「砂漠化」対策
海溝というもの
漁村を活性化するのは「心」なのか「環境」なのか?
高性能な船を実験水槽で開発する方法をウェブでわかりやすく説明する
地球温暖化だけでサンゴ礁の国は水没しない
海中ロボットで海を身近に
河川の構造物はニホンウナギの行く手を阻んでいるか?
「赤潮」の頻発と養殖漁業 ~インドネシア・ランプン湾を例に~
大学における学際海洋教育を推進するための基礎データ
島嶼(とうしょ)における海洋保護区のあり方と意義
海洋生物の多様性保全と利用を考える
海を守る、地球を守る
我が国の離島の保全・管理や振興
海面上昇に対する沖ノ鳥島の維持
「海」から展開する情報プラットフォームとネットワーク
海洋深層水の利用
うみあるきとは?-システム開発の目的と方針
現代の海賊問題と日本
沿岸域利用についての合意形成メカニズムの評価検討
次世代海洋研究者の育成
陸と海のつながりと海洋生態系
大学における学際的海洋教育研究
漁業をまもる先端技術
海底に眠る鉱山—熱水鉱床
海洋に関わる諸活動のコスト・ベネフィット評価
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