研究者発の海の話研究者発の海の話

海中ロボットで海を身近に

掲載日 2016.06.29
東京大学大学院新領域創成科学研究科助教 和田良太

海は誰もが知っている存在ですが、実際に海の中を見たことのある人は、そう多くはありません。見上げれば月が見え、星が見える宇宙とは、そこが違います。

高校生や大学生に対する海洋教育の現場で、海をよりリアルで身近なものとして感じさせるにはどうすればよいか。私たちは、海中ロボットを操作して、まるで自分が海に潜っているかのように海中を観察できる、現場体験型の海洋教育の実現を目指しています。

人が行けない海中で活躍するロボット

昨今、テレビなどでドローンからの空撮映像を見かけることが多くなりました。新しい視点で世界を見渡すと、ふだん見ている景色がまったく違う姿となり、驚くことが多々あります。

私たちは海の中で同じような「目」を手に入れようとしています。海の中を自由に泳ぐ海中ロボット(ROV: Remotely Operated Vehicle)にカメラを装着することで、見たこともない海の景色を撮影することができます。これは、きれいな魚などの生物を見るだけでなく、海底にある魅力的な資源を開発するためにも重要な技術です。

世界の海には多くの資源が眠っており、日本の周りにもメタンハイドレートや海底熱水鉱床と呼ばれる資源が豊富にあることが知られています。しかしながら、これらは深さ1000m以上の海底にあり、そう簡単に人が行くことはできません。そこで、深く海中まで自由に航行できる海中ロボットの活躍が期待されているのです。

高水圧で電波も届かない海の世界

ROVを深い海の中で自由に泳がせるには、いろいろな技術が必要です。

陸上を動くロボットの場合は、前後と左右の動きが基本です。ところが海中では、それに上下方向の動きが加わります。そのぶん、動きのコントロールも難しくなります。

海中を自由に泳ぐための推進器や制御装置は、大きな水圧に耐える構造が求められます。また、海中では電波が使えず、光も遠くまで届かないので、周りの様子を調べたり、陸上にいる操縦者と通信したりする方法にも工夫が必要です。研究開発では、さらに進んで、全自動で動くAUV(Autonomous Underwater Vehicle)も登場しています。

ホームセンターの材料で海中ロボットを製作

私たちは、このプロジェクトで、ROVを利用した海洋教育を目指しています。まず、大学生、大学院生とともに、ROVの基本である「6自由度」の推進力を持つ簡易ROVの製作に取り組みました。潜水艦のように海中で動くものを操縦するには、前後、左右、上下の動きのほかに、左右に傾いたり首を振ったりする動きなどもコントロールする必要があります。このような動きは全部で6種類あって、それを「6自由度」と呼んでいます。

インドネシア・ランプン湾
図1 ホームセンターで買ってきた材料も使ったROV
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推進器や制御装置以外は、ホームセンターで購入できる塩ビ管などを組み合わせて製作しました(図1)。いわば簡易版のROVなのですが、制御や浮力の調整などでいろいろと検討項目があり、たいへん勉強になりました。また、製作したROVを岸壁から海へ投入して魚と一緒に泳がせたときの達成感は、想像より大きいものでした。

学生や高校の教員の方々と船に乗り、市販されているROV(図2)を、海で実際に操作してもらう活動も実施しました。港湾内とは違い、波で揺れる船の上で作業をする機会はとても貴重な経験になったとのことでした(図3)。さらに、海底で休憩中のウミガメを見つけるなど、見たことのない光景に興奮しました(図4)。

インドネシア・ランプン湾
図2 実習で利用したROV
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ランプン湾の漁港
図3 船上での実習風景
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ランプン湾の魚市場
図4 海底で発見したウミガメ
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海中ロボットを海洋教育の「目」に

このプロジェクトを通して、海の中の新しい「目」を自由に動かすことで、海がぐっと身近に感じられたのではないかと思います。これからは、地元高校との連携強化などを通してROV実習をプログラム化し、より多くの学生に参加してもらうこと、またROVの観察対象をより面白いものにしていきたいと考えています。

将来的には、ROVが広く普及し、海洋と人間をつなぐ存在として、また海洋の利用と保全を担うツールとして展開されることを目指しています。

※東京大学海洋アライアンス・イニシャティブ「海洋調査による海洋教育と観光の可能性」の研究成果をもとに執筆しました。
(写真提供 巻俊宏准教授)
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