知って楽しい海の話知って楽しい海の話

離岸流を知ろう

ゴールデンウィークに夏休み。休みは楽しい。社会人になってからは学生時代のような長い夏休みとは縁がないが、それでも夏はワクワクしますね。娘や息子が小さかったころは、ずいぶんキャンプに行った。クルマに荷物をいっぱい積んで、山梨の明野や上野原、札幌の定山渓などなどへ。ヒグラシの声を聞きながらビールに焼肉。北海道の然別湖では、満天の星空が素晴らしかった。

山にしろ海にしろ、アウトドアで大切なのはケガをしたり事故に巻き込まれたりしないことだ。ビールを飲んでまきを割っていて、指を切ったことがあったっけな。そんなちょっとしたケガでさえ、気持ちがしぼんでしまう。そこで今回は、海辺の危険な流れの科学についてお話ししよう。

沖へ向かう離岸流

離岸流写真
典型的な離岸流。左右の波の砕けた部分から手前に流れが押し寄せ、砕けた波のない中央から沖に離岸流が流れていく。波が砕けていないところは、離岸流の要注意箇所だ。(日本ライフセービング協会「サーフ教本」より、Surf Life Saving Australia提供)
拡大図

海水浴場でおなじみの砂浜に打ち上げる波は、たんに寄せては引く単純なものではない。浜辺に近づいた海の水は、海岸に向けて押し寄せたり、海岸に平行に流れたり、あるいは部分的に沖に向けて強く流れ出したりする。

岸から沖に向かって流れ出すこの強い流れを「離岸流(りがんりゅう)」という。英語では「リップ・カレント」。激しい流れという意味だ。遊泳中にどんどん沖へ流されて、深刻な事故につながりかねない。今回は、この離岸流についてお話ししたい。

離岸流は、どのようにしてできるのか。

海の波は、遠くから海面の緩やかな盛りあがりとしてやってくる。このときはまだ海面が上下するだけなので、たとえばそこに浮いている舟も上下するだけ。岸に向けて押し流されたりはしない。

波が進んで水深が浅くなると、波のエネルギーが凝縮されて波は高くなる。こうして浅いところを高い波が進むようになると、海面の水はたんなる上下動だけでなく、波の進む向きにすこし動くようになる。つまり、岸に向けた流れが生まれる。もっと浅くなると、波は不安定になって砕ける。砕けた波は、さらに水を岸のほうに追いやる。

波がつぎからつぎへとやってくると、水はつねに岸に追いやられるので、波打ち際の近くはすこし海水が過剰になっている。となれば、この過剰の水は、どこかで沖に戻っていかなければならない。その戻る流れが離岸流だ。

海岸には波のほかに流れもある

離岸流写真

拡大図

もうすこし説明しよう。波打ち際の海底は沖に向かって深くなるが、1枚の板を傾けて置いたような完全に平らな斜面ではない。浜辺の近くから深くなっている部分もあれば、浅瀬がしばらく沖まで続く部分もある。その関係で、砕けた波とともに勢いよく水が押し寄せる場所もあれば、そうでない場所もある。このような浜辺につぎつぎと波がやってくると、一定のパターンをもった流れが生まれる。もうすこし正確にいうと、ひと波ごとに海水は岸向き、沖向きに往復運動するのだが、長い時間の平均をとってみると、海水は一定の向きに流れている。このようにしてできる海岸近くの流れを「海浜流(かいひんりゅう)」という。

海浜流は、沖から岸に向かう流れ、岸と平行な流れ、岸から沖に出ていく流れの三つの流れがセットになっている。このうちで、沖に出ていく流れが離岸流だ。波によって沖から多量の水が押し寄せ、それが岸と平行に流れの向きを変え、こんどは沖に向かって離岸流として戻っていく。

浜辺では、こういう基本的な流れのパターンの上に、寄せては返す波の動きが重なっていると考えてもよい。だから、海に浮いているビーチボールは、波に合わせて沖へ岸へと揺られながら、気がつくとかなり横のほうに動いてしまったり、離岸流に乗ってずっと沖に流されてしまったりする。

離岸流は速い。秒速2メートルくらいに達することもあるという。水泳の選手でも、100メートル泳ぐのに平泳ぎだと1分かかる。つまり、秒速メートル半ちょっと。離岸流にもろに逆らって泳げば、水泳選手でも流されてしまう。離岸流にも、強いものや弱いもの、規模にも大小があるが、おおむね幅は10〜30メートル、それが沖合まで数十メートルから数百メートル続いている。

日本ライフセービング協会の石川仁憲・副理事によると、日本の海水浴場で人が溺れる事故のうち、5〜7割が離岸流によるものだという。離岸流などといういかめしい名前を聞くと、なにか特殊な流れのような気がしてしまう。だが、そうではない。「遠浅の海岸なら、離岸流はどこでも発生していると思った方がよい。波が高ければ『危険だな』と自分でわかるでしょうが、流れは目に見えないので油断しがちです」

離岸流から身を守るには

離岸流写真
こじんまりしたオーストラリアの砂浜に現れた離岸流。白波の少ない矢印の部分に、沖に向かう離岸流が発生している。波が砕けていないことが、離岸流を見つけるポイントのひとつ。石川さん提供の写真に矢印を加えました。
拡大図

石川さんは、離岸流に巻き込まれるまえに、その兆候をキャッチすることが大切だという。ヒントは、これまでお話しした離岸流の科学にある。離岸流は、岸に沿った流れが向きを変えて沖に向かう。だから、岸に平行に流されていないかをチェックすればよい。

自分が広げたビーチパラソルの前で海に入ったはずなのに、いつのまにか遠くになってしまった。これは、岸に沿って流されているからだ。目の前で水遊びしていた我が子が、ずいぶん脇のほうにズレている。これは危険信号だ。お父さん、パラソルの下でウトウトしている場合じゃない。すぐ助けに向かいましょう。

離岸流に巻き込まれて沖に流されたらどうするか。

海浜流のパターンからわかるように、離岸流の脇には、逆に岸に向かう流れがある。離岸流の中を岸に向かって泳いではダメ。岸に平行に泳いで、離岸流から抜け出すことが大切だ。

石川さんによると、砂浜の離岸流は、海底がえぐれて深くなっていることころにできやすい。両脇は、それに比べて浅い。だから、離岸流の脇に泳ぎ出れば、流れは岸に戻れる方向に変わるし、底に足がつくかもしれない。流れが岸に向かう浅瀬の部分は、波が砕けやすい場所でもある。波がよく砕けているところは、岸向きの流れ。白く砕けた波を目指して、離岸流から横に脱出すればよい。あわててはいけない。

そして、恥ずかしがらないで助けを求めること。大声もあげたほうがよいが、声はあまり遠くには聞こえない。できるだけ手を振るのがよいという。自分で立ち泳ぎできる、あるいはビート板のような浮くものを持っている場合は、浮きながらおおきく手を振る。これで、監視員の目に格段にとまりやすくなるそうだ。

離岸流ができやすい場所

こんなとろこにも離岸流はできやすい

拡大図

砂浜にできる離岸流の位置は、いつも決まっているわけではない。長岡技術科学大学の犬飼直之・助教は、「どこにどのような離岸流ができるかは、海底や湾などの地形と波の向きや高さに影響されます」と説明する。

砂浜にたくさんのゴミがまとまって取り残されていることがある。これは、まわりから海水が集まってきている証拠だから、そこから沖へ向かう離岸流が発生しやすい場所。しかし、数日くらいで海底の凹凸は変わる可能性があり、危険個所はすでに別の場所に移っているかもしれない。

犬飼さんによると、ふつうの砂浜海岸のほかにも、離岸流のできやすい場所があるという。ひとつは、沖に向かって突き出した堤防のような「突堤」の脇。海岸に平行にやってきた海浜流の流れが、突堤にぶつかって向きを沖に変える。もうひとつは、海岸線と平行に沖に設置した「離岸堤」の脇。沖から来た波が両脇から回り込んできて、岸から離岸堤に向かう流れができる。この流れが、離岸堤の脇から沖に流れ出していく。突堤も離岸堤も、砂浜海岸などの浸食を防ぐために設置する。そのかいあって、近くに砂浜が広がっていたりするのだが、離岸流には要注意ということだ。

page top