活動報告活動報告

【フォーラム】中高生向け「海の話を聞こう in 東大」の開催報告(2016/11/20)

2016/11/25

 東京大学海洋アライアンスと日本財団は11月20日の日曜日、中高生向けのフォーラム「海の話を聞こう in 東大 〜私が海から離れられない理由〜」を東京都文京区の東大本郷キャンパスで開きました。約70人の中高生が参加しました。

 フォーラムでは、まず、海と関係の深い活動をしている5人のゲストスピーカーが、自分の目で見た海の魅力について話しました。休憩をはさんだ後半では、参加者全員が五つのグループに分かれ、5人の話を通して発見した海の魅力を表現する寄せ書きを作りました。
 5人のゲストスピーカーが中高生に語りかけた海の魅力を紹介します。


海、そこは細胞が震える場所(八幡暁さん=海の冒険家、一般社団法人そっか共同代表)八幡.jpg

 いま、僕のことを「冒険家」と紹介してもらいましたが、じつは冒険家でもなんでもないんです。大学を出て20年のあいだ働かずに遊んでいたら、そう呼ばれるようになりました。
 なにをしていたかというと、たとえばオーストラリアから日本までの海を、カヤックという小さな手こぎの舟で移動したりしています。大昔の丸木舟のようなものです。テントと鍋と魚をとる道具だけを持って移動します。重さは30キロくらいになります。
 僕が行くところは、食料や電気もガスもない世界。あるのは海、山、川といった自然だけです。自分で魚をとって自給自足するほかありません。海は荒れることもあります。いまみなさんがこんなところに行ったら、生きていけない。ですが、たとえばオーストラリアには実際にこんなところがあり、こういう世界で生きている人がいる。だれでも訓練すれば、特殊なトレーニングなどしなくても生きていけるようになります。そうすると、ほんとうにきれいな海に出会うこともできるのです。
 人は自然の中で生きています。台風が来るところでは石の家に住んでいるし、熱帯の家は風通しがよい。ジャングルに入ってカンガルーの狩りをする子どももいて、かれらにとって、これは狩りでもあるし遊びでもある。
 どこの社会でも、海岸線は子どもの遊び場です。拾った大きなゴミを使ってサーフィンをしたりしている。ところが、日本の海岸線を旅していると、遊んでる子どもがほとんどいない。
 いま僕は、子どもたちと街で遊んでいます。街には自然がないかというと、じつはそんなことはない。立ち入り禁止になっているだけです。とにかく遊んじゃおう、楽しんじゃおうとしています。
 海は「細胞が震える場所」です。「生きる」ということを自覚して懸命になれる場所、ワクワクする場所です。なににワクワクするかは、人によってさまざまです。生き物がいて魚がきれいだとか、海が青くてきれいだとか。怖いもの、怖いことに出会うこともあります。自分にとって、なにが怖くてなにが怖くないのか、その線引きもわかってくる。そんなところが魅力で、僕は海から離れられずに遊び続けているのだと思います。


海女の海は宝の山(佐藤梨花子さん=海女さん)  

佐藤.jpg

 

 私は、海女といっても新米なんです。海女になる前は、名古屋で会社員をしていました。貿易の仕事で、ヨーロッパを4年半、担当していました。生まれたのは愛知県の山の方で、親戚にも海に関係のある仕事をしている人はいなかったので、海女になるまで、私の頭の中には「海」はありませんでした。
 そんな私が海女になったのは、ご縁というほかありません。私の主人はフリーランスの学芸員で、漁師や水中カメラマンなどの海に関係がある仕事をしています。かれは三重県の鳥羽市で漁師になるため、2年以上、漁師の修業をしました。そして、とても異例のことだったのですが、そこで魚をとってもよい「漁業権」を得ることができて、漁師になったのです。だから、私は海女になれたのです。
 この漁業権を得るためには、その地域の漁師さんや海女さん、そういう人たちの合意が必要です。かれらに、「この人になら魚をとらせてもよい」と認めてもらわなければならないのです。けっこうハードルは高いです。私は、ほんとうにラッキーでした。
 最初のころは、海が怖かったです。シュノーケリングやダイビングなどの経験もありませんでしたし。最初に海に入る「口開け」の日は、がたがた震えていました。
 海には、事故もあります。きのうまで一緒におしゃべりをしていたおばあちゃんが亡くなってしまうこともあります。海草が体に引っかかって浮きあがれなくなり、死が近づく恐怖を感じたこともあります。ですが、海にはまた素晴らしい魅力もあるので、そんな怖いところだと知っていながら入っていくのだと思います。
 海女の毎日は、宝探しのような感じです。会社員のときは、決められた仕事をこなすことに生きがいを感じていました。海女の仕事は、その日には海に行かなければいけないと決まっているわけでもないし、これだけの獲物をとりなさいというノルマもありません。
 海女さんは、海の獲物が福沢諭吉(1万円札)に見えるといいます。たとえばアワビは、小さいものはとってはいけない決まりなので、そんな小さなアワビを見つけると、「あと何年か元気に育って『諭吉』になるんだよ」という気持ちで手を振ってお別れしたりします。
 海女さんというと職業のひとつのように思えますが、それは女性にとってのライフスタイルでもあります。海女の仕事をとりまくすべての環境をひっくるめて、「海女」というライフスタイルなのです。70歳、80歳の海女の方が孫のような私に伝説や神様の話をしてくれます。海と一緒に生きるということは、自分自身の習慣やものの見方、そんなものを全部ふくんでいます。そんな海女さん、漁師さんの姿は美しく見えます。
 私たちの地域では、海女さんの高齢化が進んでいます。私は最年少です。命と隣り合わせの仕事ですし、漁業権という高い壁もあります。ですから、ぜひ一緒にやりましょうとお誘いするのは難しいのですが、海女は、宝探しのような気分で仕事ができて、海でとったものがそのままお金になる楽しい仕事です。このまま一生、海女さんを続けられたらいいなと思っています。


海はびっくり箱だ(山本智之さん=朝日新聞科学医療部記者)山本.jpg
 

 私は新聞社で、スペースシャトルから最新の医学まで、いろいろな科学ニュースを担当しています。先月は、東京工業大学の大隅良典栄誉教授がノーベル生理学・医学賞に決まり、忙しい思いもしました。
 このようにいろいろな仕事をしながら、海の取材はずっと続けています。きょうはそんな話をしたいと思います。
 海に興味を持ったのは、静岡県の伊豆半島で潮だまりの生き物を観察したのがきっかけです。潮だまりをのぞくと、いろんな生き物がいるんですね。びっくり箱を開けるように、ドキドキ、ワクワクしながら、つぎつぎと潮だまりを見ていきました。海はびっくり箱だなという気持ち。いまでもそういう思いで仕事をしています。
 大学生に入ってすぐ、水中写真を始めました。いろんな生き物に会って、やみつきになりました。たとえばカクレクマノミ。カクレクマノミを主人公にした映画で「ニモ」と呼ばれていたので、最近は「ニモ」としか呼んでもらえなくてかわいそうですが...。ハワイではアオウミガメに会いました。カメと一緒に泳ぐのは、すごく気持ちがいいんですよ。沖縄やオーストラリアのグレートバリアリーフももちろんよいのですが、伊豆半島でもきれいな魚に会うことができます。
 新聞社では、水産庁の開洋丸という漁業調査船に乗って、南極海まで取材に行く機会がありました。前方に氷山が見えるような海を進んでいきます。途中の島ではペンギンに会えました。クジラやペンギンのえさになる、エビのような形をしたナンキョクオキアミも調査しました。
 ここでも海に潜りました。大きなゴムボートをかんで破いてしまうヒョウアザラシが近くにいるという報告があったので、怖いから潜るのをやめようかとも思いました。ですが、調査で航海している最中なので、潜れるチャンスは限られています。思い切って潜ってみました。
 南極の海は、海上の風景は殺風景でモノトーンですが、海の中は意外に鮮やかでした。ヒトデなどの黄色や赤が海底をびっしり埋めている。まるで、秋のもみじが地面をおおっているような鮮やかな世界で、とても驚きました。
 南米エクアドルの沖にある赤道直下のガラパゴス諸島にも取材に行きました。ここには、海に潜って食事をするウミイグアナがいます。まるで恐竜のような顔をしています。ここは世界自然遺産に登録されているのですが、ナマコの密漁が問題になっています。中華料理の高級食材として使われるので、とても高価なのです。世界遺産の島で、こんなことが起きているのです。
 サンゴの色が白くなってしまう「白化(はっか)」も問題です。この状態が続くと、サンゴは死んでしまいます。国立環境研究所と共同で調査しました。上空から写真を撮って、サンゴが生きているところと死んでしまったところを調べました。沖縄の石西礁湖(せきせいしょうこ)という海域では、5年間で7割のサンゴが消えていることを新聞で報告しました。
 いま、本州の沿岸ではサンゴの分布が北上しています。地球温暖化の影響が指摘されています。もともとはいなかったはずの和歌山県や、いまでは伊豆の海でも見ることができます。この意味でも、まさに「海はびっくり箱」です。
 水中で起きていることは、陸上のようには目につきません。ですから、これからも海の中で起きている変化を記事にして発信しつづけていきたいと思います。


体の中に海が戻ってくる(武藤由紀さん=フリーダイバー)武藤.jpg
 

 私はフリーダイビングをしています。フリーダイビングというのは、息を止めて潜るスポーツで、ようするに素潜りです。
 中米のバハマにあるブルーホールというところで2012年に開かれた大会では、55メートルまで潜りました。大きな足ヒレをつけて潜っていきます。海の中は独りぼっちですが、20メートルくらいのところまで上がると、ダイバーが迎えに来てくれています。酸欠で気絶する危険もあるので、そのときにすぐに助けられるように、周りにダイバーが集まってきてくれるのです。海面に出るとOKのサインを出します。これは「私は気絶していませんよ」という合図です。いまの世界記録は128メートルです。
 息を止めて水に浮かんでその時間を競う「スタティック」いう種目もあります。この種目の記録は11分35秒です。こんなに長く息を止められるのは特殊な人ではないかと思うかもしれませんが、息を止める能力、水に潜る能力そのものは、だれにでも備わっています。
 水に入って息を止めると、心拍数が少なくなってきます。脈がゆっくりになって、酸素を節約するようになるのです。ブラッドシフトという現象も起きます。全身を回っていた血液が、肺や脳のように大切な部分に集まってくるのです。そのぶん、手足のような末端はしびれてきます。
 海中では、大きな水圧が体にかかります。私が潜った55メートルだと、7気圧近くになっています。パンパンに空気が入ったサッカーボールをそこまで沈めると、まるでティッシュペーパーを丸めるように押しつぶされてしまいます。
 ですが、私の体は、そうはなりません。それは、人間の体の7割くらいが水でできているからです。海の面積も、地球の表面の7割くらいです。地球も人体もそのほとんどが水であることを考えると、私たち人間は水の惑星に生まれた水の生物といえるのではないかと思います。フリーダイビングで潜っていると、自分の体の中に海が戻ってきたと感じることがあります。
 日本の海は、世界でいちばん面白い海です。南にはサンゴ礁があり、北には流氷があります。毎年、北海道の知床でダイビングするのですが、水温マイナス3度の海の中から見上げる流氷はとても美しいです。ヒトデもクリオネもいます。たくさんの生き物に出会えるのです。自分の家がある三浦半島の葉山で泳ぐと、イワシの群れが海面から跳びはねています。マンボウにも会いました。東京港から船で7時間くらいの御蔵島に行けば、イルカに会えます。
 海に入っていると、潮の満ち干や、満ち干の大きさに関係がある月の満ち欠けにも敏感になってきます。海は静かなときも荒れているときもあり、自分が大きな自然のリズムの中にいると感じることができます。海の中では重力を感じられず、自分のまわりの360度すべてが自由です。そして、暗い深い海から浮きあがってくると、太陽の光のありがたさを感じます。
 海ではたくさんの命に出会えて、自分もその中の一部だと実感できるのです。その魅力が、私が海から離れられない理由です。


「不思議」を育む(北川貴士さん=東京大学大気海洋研究所准教授)北川.jpg

 

 海の魚の研究をしていますが、生まれは滋賀県です。滋賀県には琵琶湖がありますが、海はありません。もとから海に関係があったわけではないんです。
 大学の卒業研究で、すぐ近くに琵琶湖があるんだから琵琶湖のナマズを研究しようということになりました。ナマズに音波発信機をつけて、どのように動き回るのかを調べるのです。
 結局は、あまり動きませんでした。つぎは動く魚を研究したいと思っていました。そのころ、いまいる東大の大気海洋研究所からマグロやカツオの研究をしないかと誘われ、「ぜひ行かせてください」と答えて現在に至っています。みなさんのような中学生や高校生のころから海の研究者になろうと思っていたわけではないんです。
 研究の話をしましょう。たとえば、キハダマグロの動きを調べるには、おなかを小さく切り開いて記録計を埋め込みます。これで水深や、マグロは水温より体温が高いので、その体温も記録します。よく「マグロは泳ぎをやめて止まると死んでしまう」といわれますが、このように釣りあげておなかを開いても、ちゃんと生きています。マグロは少々のことでは死にません。実際にやってみると、これまでの常識とは違うことが出てくるのが、海の世界です。
 研究のために船にも乗ります。調査している様子の写真を持ってきました。ここに写っている女性は大学院の学生です。リケジョを意識して、女性の写真を持ってきました。この写真を撮ってくれたのは私が指導している学生ですが、彼は、この写真の女性と結婚しました。海の研究の世界にも「出会い」はあるので、ご安心ください。海の上も独りぼっちではないということです。
 船の上では、刺身も食べられます。釣った魚をさばいてくれます。お料理番組とは違ってさび付いた包丁なんですが、カツオやマグロにもすいすいと刃が入る。私は船に弱いので、あまり食べられないのですが。
 そして、海のことを考えるとき、注目してほしいのは「光」です。月の光は、太陽の光が反射して、約30万キロも離れた地球に届いたものです。ところが、光は、海に入ったとたんに弱まってしまいます。光は電波の仲間ですが、海の中に電波は届きません。電波はどこにでも届くという陸上では当然のことが、海の中では当然ではありません。
 地球から30万キロも離れた月面を歩いたことがある人はいますが、その距離に比べればすぐそこともいえる水深1万キロちょっとのマリアナ海溝を歩いた人はいません。
 人間の体は、頭、胴体、脚の順に並んでいますが、イカは、胴体、頭、脚の順です。なぜだろう。人間の常識とは違うんですね。そして、イカには心臓が三つあります。ありふれた海の生き物なのに、そこに不思議があります。このような「不思議」を育んでいけるのも、海の魅力だと思います。


海の魅力を語る5枚の寄せ書き

 5人のゲストスピーカーから聞いた「海の魅力」。後半では、参加した中高生が五つのグループに分かれて、さらにいろいろな海の魅力を話し合いました。各グループがそれぞれひとりのゲストスピーカーを囲み、海の魅力を表現する言葉を、できるだけたくさん探しました。
 その成果を、1枚の模造紙に寄せ書きしました。そして、真ん中には、海の魅力を一言で表す「決め台詞」を。


 寄せ書き1八幡文字入り.jpg      寄せ書き2佐藤文字入り.jpg

   「海は∞(無限大)だ」(八幡さんチーム)       「海は生死だ」(佐藤さんチーム)



   寄せ書き3山本文字入り.jpg     寄せ書き5北川文字入り.jpg

  「海はビックリ箱だ」(山本さんチーム)        「海はこれからだ」(北川さんチーム)


寄せ書き4武藤文字入り.jpg

                     「海は自由だ」(武藤さんチーム)


の五つが並びました。


海の波を再現する水槽実験も 丹羽.jpg

 今回のフォーラムでは、休憩時間を利用して、津波の性質を調べる実験も行いました。実験したのは、海洋アライアンスの丹羽淑博特任准教授。水の深さによって波の進むスピードが違うことがわかりました。
 さらに、フォーラムが終わって参加者が帰る際に、回転している地球に乗っている海の水にはどのような特徴があるのかを、回転する台に載せた水槽を使って実験しました。


                          (文責:東京大学海洋アライアンス上席主幹研究員 保坂直紀)

Contents
活動報告一覧
page top