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活動報告

【シンポジウム】第8回東京大学の海研究「攪乱の時代」(2013/7/31)
2013/08/28

報告:海洋アライアンスシンポジウム

8回東京大学の海研究

「攪乱の時代」


2013731日(水)1000から,農学部弥生講堂で標記シンポジウムが行われた.海洋アライアンス主催で毎年この時期に行われる同シンポジウムは本年で8回目を迎える.


松本洋一郎東京大学理事・副学長からの開会の挨拶の後,最初の講演「日本をとりまく地震活動の状況」が平田 直教授(地震研究所)からあった.現在の日本が地震活動の活発な時期というわけではないが,東北地方太平洋沖地震の日本列島への甚大な影響は今も続いていること,余震は今でも続いており,関東でも地震活動は活発になっていること,一方,南関東はもとから地震活動は活発で,その関東の地下の地震の分布とプレート境界の位置が近年になってだいぶ理解出来てきたことを発表した.


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会場の様子(演者は,新野教授)


新野教授(大気海洋研究所所長)は「気象擾乱と海-台風に関する最近の課題から-」を講演した.気象擾乱の代表である台風は,海洋表面度が上昇し,水蒸気の補給を受けることで発達するという,海と密接な相互作用を持つ.台風はこうした発達機構については定性的に知られているが,発生機構や微細な内部構造などわかっていないことが多く,強度や進路予想が難しいことを解説.その原因が台風が観測頻度の低い海上で発生することや,荒天のため船舶観測が難しいことにあることから,近年では航空機観測に期待が寄せられていることを紹介した.また,台風によって海水がかき混ぜられることによって起こる,基礎生産の一時的上昇といった現象についても言及した.


相模湾の奥に位置し,上流に出来たダムの影響で土砂供給が減少し,海岸浸食が深刻化している西湘海岸において,2007年の台風9号による西湘バイパスの崩落が発生した.この事例を中心に,田島教授(工学系研究科)は「沿岸の波・流れによる巨大外力場の攪乱と防災減災」という演目で講演した.高波浪来襲時は,長周期波成分が増加すること,様々な波高の波の位相があって水位変動を高め合う地点と打ち消し合う地点が出現すること,局所集中するが威力は地形による影響を強く受けるためある程度の予測は可能であるものの,波の向きや周期によって変化すること,設計想定を越える波については堤防による防御もあるが,堤防を越流した際の想定を含めた減災対策が急務であることを指摘した.


河村教授(大気海洋研究所)は,「東北地方太平洋沖地震による海洋生物群集の攪乱 -海洋生物に襲いかかる天災と人災- 」について講演した.地震・津波の攪乱は人間社会だけでなく,海洋生態系にも大きな影響を与えた.また,地盤沈下による砂泥の流出によって,海草藻場が消失し,魚類相が大きく変化したところもある.水産生物についてみると,影響は生物種毎,成長段階毎で異なっており,生き残った個体から新たな世代が形成されている海藻や小型無脊椎動物には回復度合いの高いものもある.一方,成長の遅いアワビについてみると,稚貝は津波で流されたがより大型の個体は生残した.しかし,漁業者による採捕圧が高いためにこれらの大型個体は過剰採取に会っていること,稚貝が流されたことや大型個体の過剰採取によって子供の加入が減少すること,稚貝の着定場所が海藻の繁茂によって減少していることから,漁業者には今の資源状況では乱獲により将来的にアワビが取れなくなる可能性があることを念頭に入れた産業活動が必要であることが指摘された.


福島第1原子力発電所の事故による放射性セシウムの東京湾流域における分布を「沿岸域の水環境への人為影響」という演目で,新領域創成科学研究科の鯉渕准教授は講演した.東京湾及びその流域での水平分布調査と,江戸川,荒川,隅田川では河口堆積物を調べた.その結果,過去2年間を見る限り,東京湾内の放射性物質に顕著な増加が見られないこと,3河川においては河口より上流では大半が河底に堆積していること,堆積の度合いや下流への輸送は上流の席の運用や出水の度合いなどにより異なり,今後も注意深く見守る必要があると報告した.


上田特任准教授(公共政策大学院)は,「海洋ガバナンス確立への貢献に向けた大学の模索」について講演した.日本における海洋の利用は,様々な主体によって進められており,そこに明確な秩序の構築がなされているとは認めがたいことから,海洋ガバナンスが確立するにはいたっていないとした.その上で,海洋ガバナンスが確立するには多くの人が秩序を認識する必要があるとし,そのために産官学はそれぞれに取り組み始めていることを示した.国は海洋基本計画に基づき,5年前に海洋基本計画を策定したが,この間の実績を踏まえ,見直しを行って,本年2期目の5年に入ったところである.そうした中で,大学の役割である教育と研究のために有している人材と資材を基本として,海洋ガバナンス確立への貢献に向けた模索を行っている東京大学の取り組みを紹介した.


最後の講演として,東京大学海洋アライアンスの海洋学際教育プログラムの演習を受講している大学院生によるパネルディスカッション「大学の枠を越えた活動 -挑戦と学び-」が行われた.最初に,大学院生3名がそれぞれの体験談を披露した.小川さん(大気海洋研究所)は「第3回東アジア海域環境管理パートナーシップのユースフォーラム」,菊池さん(農学生命科学研究科)は「東京大学とロードアイランド大学による共同セミナー」,古園産(農学生命科学研究科)は「おいしい三陸応援団」での活動を報告した.共通しているのは,学内での研究科といった縦割りを越えた横型教育による異なった専門分野を背景にした学生同士の出会い,海外や被災地などで様々な人々とかかわる機会を与えられ,通常の大学院生活にはない人生経験を得られたというものであった.


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学生によるパネル討論風景(左端は司会の村山准教授)


参加人数は181名と,例年に比べ1割以上少なかったが,各講演は内容の濃いものであり,参加者からは勉強になり,今後も続けてもらいたいとのコメントがあった.特に学際教育のプログラムにおける学生のパネル討論は,新しい試みとして良い評価を受けた.また,横型教育で得られる成果は,いずれ国内外で活躍するであろう学生諸氏にとって,重要な機会を与えていることが実感出来た.その一方で,こうした授業を実施する教員サイドの負担は大きいこと,そのため新しい試みを行うための準備や,学際的教育を実際に実行出来る教員の養成とポストの用意が急務であり,この課題は大学だけで解決出来る問題ではないことが痛感出来た.

(文責:野村英明(大気海洋研究所))


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-- プログラム --

講演要旨集のダウンロード:8th_Ocean_Alliance_symp_abstract.pdf


      司会:羽角博康(大気海洋研究所)

10:00-10:10

 開会挨拶

      松本 洋一郎(理事・副学長)

10:10-10:50

 現在の日本をとりまく地震活動の状況

      平田 直(地震研究所)

10:50-11:30

 気象擾乱と海-台風に関する最近の課題から-

      新野 宏(大気海洋研究所)

11:30-12:10

 沿岸域の波・流れによる巨大外力場の攪乱と防災減災

       田島芳満(工学系研究科)


      司会:多部田茂(新領域創成科学研究科)

13:30-14:10

 東北地方太平洋沖地震による海洋生物群集の攪乱

  -海洋生物に襲いかかる天災と人災-

      河村知彦(大気海洋研究所)

14:10-14:50

 沿岸域の水環境への人為影響

      鯉渕幸生(新領域創成科学研究科)


      司会:村山英晶(工学系研究科)

15:10-15:50

 海洋ガバナンス確立への貢献に向けた大学の模索

      上田大輔(公共政策大学院)

15:50-16:50

 パネルディスカッション:「大学の枠を超えた活動 -挑戦と学び-」

      小川太輝(大気海洋研究所)

      菊池里紗(農学生命科学研究科)

      古園勇斗(農学生命科学研究科)

16:50-17:00

 閉会の挨拶

      機構長 日比谷 紀之(理学系研究科)


17:15-19:15 懇親会(於:弥生講堂アネックス)

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