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活動報告

【報告】権利準拠型の漁業管理に関する国際ワークショップの概要 (海洋アライアンス主催)
2010/02/05

東京大学海洋アライアンス主催

権利準拠型の漁業管理に関する国際ワークショップの

結果概要について


     日時:2010年2月1日(月)14:00-17:00

     会場:東京大学山上会館


 日本の沿岸漁業においては,政府が漁業者の集団に対して操業海域を割当てる方式で漁業管理が長年行われてきた.一方,欧米などにおいては,政府などが漁業者の個人に対して漁獲可能量を割当て,その割当枠を市場を通じて譲渡可能にする方式(ITQと呼ばれる)を近年導入した国も複数存在する.両者は,権利準拠型管理(rights-based management)と呼ばれる.この効果は,一定期間,漁業を営む権利を漁業者に付与することで,小さな魚の早捕りなどを回避し,資源保全の奨励策を漁業者に与えることなどにあるとされている.今回のワークショップでは,これら日欧米の権利準拠型管理について,各国の専門家を交えてその長所や短所を分析した.各専門家の発表内容と,議論の概要は次のとおり(なお,このワークショップは,農林水産政策研究所と日本財団から提供された研究費用を使用して実施).


(1)米国のキャッチ・シェアー・プログラム:

リー・アンダーソン教授(デラウエア大学)

米国の漁業は,かつては,オープン・アクセス(漁業への参入自由な状況)の下で,インプット・コントロール(漁法や隻数などの規制)により管理を実施していたが,生物学的にも経済学的にも破綻を来たし,徐々に参入規制とアウトプット・コントロール(漁獲量規制)に基づく管理に移行した.一部漁業では,更に進んでITQ(譲渡可能個別漁獲割当)を導入したが,加工業者からの反対などが強く,ITQの導入は一時期モラトリアムとされていた.最近,米国はこれを解除し,「キャッチ・シェアー」を導入できるようにした.キャッチ・シェアーとは,漁場の使用権(面積)または漁獲可能量(トン数)を,団体または個人に配分する方式であり,ITQだけを指す単語ではない.集団への割当は,地域社会の維持にはよいが,経済的な効率性は下がる.どちらを優先させるかは,関係者間でよく議論した上で,制度をデザインする必要があると考えている.また,漁業制度を現行のものから別のものに移行させる場合は,勝者と敗者が生じる.制度移行を円滑にするためには,敗者への補償措置も課題になる.


(2)アイスランドのITQプログラム:

ラグナー・アルナソン教授(アイスランド大学)

アイスランドは,各種の漁業管理制度を試行した経験を有する.1970年代には,漁獲枠の個別割当(IQ)を開始し,79年には一部の漁業をITQに移行させた.しかし,ITQは政治的な反対が生じたため,80年代半ばに一旦ITQを止め,努力量割当に移行した.ところが,努力量割当は有効に機能せず,漁獲能力の上昇が見られた.このためITQを再導入し,現在では,経済水域内で20種,公海で8種の魚種がその対象となっている.これにより,漁獲能力が下がり,生産性が向上し,漁獲割当枠(クオータ)の単価も上昇した.ITQを導入することで地域社会に影響が出るとの懸念が喧伝されているが,これは誇張である.人々の居住地はほとんど変わっていない.ただし,社会構造は,より商業的なものを求める社会に質的に変化した.アイスランドの漁獲枠の50%は,上位10社が保有するようになった一方で,一部の小規模漁業者は淘汰の波にさらされた.勝者と敗者は生じたものの,全体的なGDPは増加した.


(3)権利準拠型の漁業管理におけるFAOの取り組み

レベッカ・メッツナー(FAO:国連食糧農業機関)

権利準拠型の漁業管理については,1980年代初頭からFAOで検討課題とされてきた.当所は(日本の漁業権のような)コミュニティーを基本とした漁業権漁業を中心に分析が行われていたが,1997年頃から,個人に権利を配分する方式に焦点を当てるようになった.当時は,漁業における過大な漁獲能力の問題がFAOで取り上げられ始めていた時期でもあった.しかしながら最近では,FAOは小規模漁業に関する活動を強化しており,その文脈で,権利準拠型漁業の重要性が議論されている.いずれにせよ,権利準拠型の漁業管理には様々な手法が存在する.1つの手法が他と比較して常に有効という訳ではなく,場所の特性などに応じて最適の手法が決まってくると考える.


(4)日本における権利準拠型漁業管理:

八木信行東京大学特任准教授

日本では,主要な7魚種については政府が総漁獲可能量(TAC)を定め,これを漁業団体などに配分しているが,個別割当(IQ)までは政府の措置として実行していない.よってITQも導入していない.TAC対象魚種で,国内漁獲量の35%を占める.残りの魚種はTACを定めていない.一方,沿岸漁業では,先の7種以外の魚種でも地域で漁獲量上限を定め,更にこれを自主的な取組みとして個人に対するIQまで実施する漁業も存在している.沿岸漁業は,一定の区画に漁業権を設定し,詳細な操業規制の内容を漁業者がボトムアップ的に合意していく方式を採用しており,その中で発案された仕組みの中に,IQが存在しているということ.この様な場所については,その地域の取組みを崩壊させないような政策が重要である.実際,2009年のノーベル経済学賞受賞者であるオストロム教授も,地域の当事者による自主的な努力で共有資源の管理に成功している場所については,政府が見当違いの介入を行えば,長年にわたり築かれた地域の制度的資本を崩壊させる結果につながると指摘している.ただし,日本においては,管理に成功していない漁業も複数存在しており,この様な漁業では,資源量が減少し,収入も減少する中で負債返済などのため漁業者が窮迫生産を行うという悪循環が生じる.業界内の調整が機能せずにこの様な悪循環を招いている場合には,ボトムアップに期待するのではなく,政府がトップダウン的な措置を導入すべきであろう.


(5)総合討論

八木及びアルナソンが,漁業管理制度の比較表を作成し,ITQについては,経済効率の向上と,漁業者自らが対象資源の資源量維持に努める効果が生じるなどのメリットはあるが,社会の衡平性が損なわれるなどのデメリットが生じること,他方で,日本の漁業権のように集団に対して海域を割り当てる方式では,沿岸社会の平等性は維持され,漁業自らが藻場干潟など沿岸生態系そのものの維持回復に努める効果が生じるなどのメリットはあるが,経済効率は低く国際競争力が失われるなどのデメリットがあるとの整理を行った.メッツナーは,経済効率をとるのか平等性を重視するのかは,その社会の構成員自らが決定する事項であると指摘,またアンダーソンは,経済効率か平等かの他に生物学的に健全な漁業管理なのかも視野に入れるべきと指摘した.更に,アルナソンは,漁業管理の目的を何に置くかは各国がそれぞれの事情で決めることではあるが,大型漁船を使用する沖合漁業についてはITQが最も効率的な選択肢であると述べた.会場参加者から,日本における沿岸漁業の自主管理は,組合員の規制遵守意識が高く,うまく機能しているとの意見が出された.


(以上)


お問い合わせ先

 東京大学大学院農学生命科学研究科

 八木信行 03-5841-5599

 yagi@fs.a.u-tokyo.ac.jp


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